リレーコラムについて

生きる楽しみ

山中律子

洋服だと、3万も4万も大して変わらないと思うのに、
大根だと50円違うだけで、スーパーをハシゴしてしまう。
この感覚のズレって、私だけでしょうか。

我が家では、食費は私の担当です。
最近は、なにかにつけて無駄な出費があるたびに
食べ物に換算してしまうクセがついてしまった。
タクシーのメーターがカチ、カチ、となると
ああ、大根一本分だー、なんて思ったり。
自分の懐を痛めるとなると、
それが、たとえ一人でも自分以外の人間が関与していること
への出費である場合、無意識に、節約してやるっ、と攻撃的
な気持ちが働くのは、夫への愛が足りないのでしょうか。

余り物は大好きです。次の日の食材になるから。

余ったみそ汁は、ミキサーで具の野菜が判別できないように
ぐちゅぐちゅにして、翌日、カレーに入れます。
おダシと甘みの利いた和風カレーになります。

食べきれないまま飽きたハムは、細かく挽いて卵でつなぎ、
丸めて焼けばきゅっと塩気の効いたつくねになります。

余ったミートソースは、マッシュしたジャガイモに混ぜて
洋風コロッケにします。

賞味期限の切れた納豆は、熱湯で湯通しして粘りけをとっ
てから、ネギと炒めて卵でとじ、納豆オムレツにします。
当然、納豆についてるタレとカラシも使って。

もちろん、こんな仕事ですから、毎日家で食べれるとは限り
ません。だからとりあえずなんでもかんでも冷凍します。
次の日にすぐ出てくるより、忘れた頃に形を変えて出てきた
方が、ばれないし、それこそ、10時、11時になんにも買え
ずに帰ったって、何か作れます。

イタリアでも、食材はとことん最後まで使い切ります。
特に、北部や南部では、昔、流通が発達していなかった
貧しい時代の名残のメニューが、今でも愛されています。

カチカチに古くなったパンをちぎって、牛乳を加え、
余ったハムのみじん切り、チーズ、卵と和えて団子にし、
油で揚げてから、スープに浮かべて食べる料理。
なぜかミートボールの味がする、
まさに騙しのテクニックです。

食べ残してカチカチになったリゾットは、次の日、
ちょっと形を整えてパン粉をつけてライスコロッケに
したり、卵を流し入れてライスオムレツにする人もいる。
 
イタリアのすごいところは、そういう貧乏時代の貧乏料理が
今でも立派な郷土料理として、レストランなんかでも
堂々とメニューに載っているところ。
ライスコロッケが食べたくて、
わざわざ前の日の夕食をリゾットにする家だってあります。

そっか。余り物を活用するのって、
けちくさいことじゃないのね。立派なレシピなのね。
妙な励ましに後押しされて、私の食材使い回し癖は、
イタリアから帰って、ますます磨きがかかりました。

今のことろ、私は、メシを作ることしか
生きる楽しみがありません。

夫は何も気づかずに、
今日も黙って金のかかってないメシを食べています。

私たち夫婦は、メシだけで、
なんとかつながっています。

つながっていますから安心してください。角田さん。
来週からのコラムは、何を隠そう、仲人です。
私が2ヶ月間イタリアへ行くことを決めたとき、
デスクがなくなる心配より、
真っ先に家庭がなくなる心配をしてくれた唯一のCDです。

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