リレーコラムについて

イブの夜が、また来る。

吉永淳

クリスマスが近づくと思い出す出来事がある。
2年前の12月24日、小田急線成城学園駅前の
バスターミナルは、いつにも増して混んでいた。
長い列の後ろに、僕が並ぼうと歩いていると、
なぜかその列の中央部分が騒がしい。見てみると、
一人のとても上品そうなおばあちゃんが倒れていた。
誰かがすぐに駅前の交番に向かい、
お巡りさんを呼びに行ったのだが、周りの人間は
コートを毛布がわりに掛けてあげることしかできずにいた。

30歳ぐらいのお巡りさんが、小走りにやってきた。
胸に耳をあて、
「まだ大丈夫だ。」
と言ったあと、彼の心臓マッサージが始まった。
手の平で、かなり強い力でおばあちゃんの胸に
何回も何回も圧力を与え続けていた。
携帯に手をのばし、
「脈はまだありますが、かなり危険な状態。
 至急、救急車の手配をお願いします。」
また胸に圧力をかけ始める。息を吹きかえす様子はない。
「おばあちゃん、おばあちゃん、
 今日はクリスマス・イブだよ。孫が家で待ってるよ。
 がんばってよ、がんばってよ。」
お巡りさんは胸を押しながら、おばあちゃんに
ずっと話しかけてた。何もできない僕の前に
調布行きのバスがやってきて、人の列は動き始めた。
やじうまの一人かもしれないことに罪の意識を感じながら、
バスに乗り込むために、列を前に進んだ。

もし僕が医者だったら、
もし僕がレスキューだったら、
もし僕がライフセイバーだったら。

言葉を職業に選んだ人間の無力さを感じながら、
僕はその場所を後にした。

20世紀最後のクリスマス・イブは、あと5日後にやってくる。
9月の上旬に書いたメッセージが入った、
あるデパートのクリスマスポスターは、
その日のあの時間が来ると、仕事を終え、
ニューイヤーバーゲンのポスターに貼り替えられる。

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