リレーコラムについて

安藤寛志

病院に着いたとき、すでに母の意識はなかった。
母は死に向かって呼吸を続けていた。
肺の中で増殖を続ける黒い細胞のために、
体に酸素を送り込んでいた。
時間は意味を失った。
最後の抵抗なのか、筋肉が細かく震え始めた。
さようならも言えない別れ。
その瞬間のことは、もう、よく覚えていない。
そして、速やかに、死の撤収が始まった。
遺体とともに、何年ぶりかで実家に戻った。
ぼくは、忙しさのせいにして、
母の病気と向き合うことから逃げていたのだ。
母が最後の日々を過ごした部屋を覗いてみた。
ドアを開けた瞬間に、
病院ではこらえていた涙があふれた。
部屋の壁には、びっしりと、
ぼくと妹が幼かった頃の写真が貼ってあった。
母は世界でいちばん美しい言葉を
ぼくに残してくれた。

安藤寛志の過去のコラム一覧

1120 2004.03.13 言葉
1119 2004.03.12
1118 2004.03.11
1117 2004.03.10
1116 2004.03.09
NO
年月日
名前
6003 2025.11.21 水野百合江 趣味が高じて
6002 2025.11.20 水野百合江 いや、めっちゃわかる
6001 2025.11.19 水野百合江 おすわり、待て
6000 2025.11.18 水野百合江 あなたは、なに界隈?
5999 2025.11.17 水野百合江 刺激的
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