リレーコラムについて

夫とネーミング競合。

小出ななみ

十数年前「娘のネーミング権を夫にゆずった」というコラムをここで書いた。
産むのも育てるのも主に女であるならば、
男にはネーミングだけでも子育てへの参加を、という理由も書いた。

でも今は思う。
果たして、理由はそれだけだったか?

我が家は大阪が誇る64年前の“ニュータウン”千里中央にある。
駅前には「千里セルシー」「せんちゅうパル」という
ショッピングモールがふたつもあり、
そのうち「千里セルシー」は惜しまれつつ閉店。
「せんちゅうパル」は地域の人々に寄り添うように、
小さなリニューアルを繰り返しながら今も営業を続けている。

そのいくつめかのリニューアルで、
数年前突如広場に小さな「山」が出現した。

山は人工芝で覆われ、
足をかけるカラフルな突起がほどこされ、
山を取り囲むように円形にベンチが配置された。
そう、それは公園によくある子どもを遊ばせる
人工の小さな山、築山というものだ。

娘はもう築山で遊ぶ年齢を過ぎていたので
私は最初はあまり関心はなかった。
ところがそのうち、その築山のネーミング募集告知ポスターが
せんちゅうパルのあちこちに貼られ出したのだ。

「考えてみようかな」
買い物袋をぶらさげて、私は夫に言った。

ネットで送るだけだし、
生まれた子パンダのネーミングほど応募もないだろうし、
採用される確率は高いと踏んだ。
なんたって賞金もある。1万円だ。

そしてだ。曲がりなりにもコッチはプロだぞ。
少し考えればかなりいいネーミングが思いつきそうだ。
いや思いついてしまうだろう。
1万円で何をしてやろうかという想像まではじめたとき。

夫が言ったのだ。
「僕も考えてみようかな」

私は嫌な予感がした。
なぜなら夫も本職はアートディレクターでありながらも、
「わりとコピーがうまい」からである。
商品コピーや企業コピーはもちろん、
キャラクターの名前もゆるくスッと考えちゃったりして。

そういうころがあるので
私は夫と揉めたくなかったこともあり
無意識のうちに早々に娘のネーミングライツを
夫に渡してしまったのではなかろうか。

いやしかし今回はもう二人とも宣戦布告である。
バチバチに戦うしかない。

わたしは子どもを見守る親たちを観客になぞらえ、
ショッピングモールによくある謎の古代イタリア世界観も加味し、
せんちゅうパルの名も見事に取り入れた
「パルッセオ」という名前で応募した。

決まったな。
親たちの熱いまなざしに包まれたこの円形娯楽施設で、
思いっきり遊ぶがいい、子どもたちよ!

さて私たち夫婦は作品を作り終えると興味を失ってしまうところがあり、
築山ネーミングのことなどすっかり忘れたある日、
我が家に1通の封筒が届いた。

「せんちゅうパルの新しい山の名前は、
あなたが考えた パルやま に決定しました」

そう、我が家に届いたのではない。
競合結果採用通知は、夫に届いたのだ。

コロッセオは猛獣が人を襲うのを観て楽しむ残酷な娯楽施設。
我が子を猛獣に見立てられる親の気持ちやいかに。
採用されなくてよかったよ。(負け惜しみ)
そして古代イタリア世界観で建てられたのは、
閉店した「千里セルシー」の方であった。

シンプルで、意味を持ちすぎないこと。
憶えやすく、永く使えること。
そして子どもは登る。そこに山があるから。

パルやま。

本当はいい名前だと思ったこと、私はまだ夫に言っていない。

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