リレーコラムについて

スナップは生きざま?

田中量司

ある仕事でカメラマンの操上和美さんとの海外ロケに
ご一緒させていただいたことがある。
場所は「中世の宝石」とよばれ、
世界で最も美しい街に数えられる東欧はチェコの首都プラハ。
ブルタバ川にかかるカレル橋を中心に広がる街並みは、
中世ヨーロッパの香りをいまだ漂わせている。
ほぼロケハンも終わり、後は本番のシュートに備えるだけとなった時、
僕らが、にわかカメラマン丸出しで一眼レフを振り回していると、
古都の風情に触発されたのか、「よし、撮るか。」の一言とともに
操上さんがセカンドカメラを取り出した。
巨匠の手に、よく使い込まれたライカ。
もうそれだけで、傑作が生まれそうな雰囲気ができあがっている。
被写体との距離は目測でピタリ。指先の微妙なタッチでフォーカスが決まる。
スーッと被写体に近づき、ファインダーを覗いたその瞬間には、
すでにシャッターは切れている。
撮られたほうはそれに気づくどころか、
清々しい風がサーッと通り抜けたくらいにしか感じない。
まさに神業。見ている僕らは、ため息すらでやしない。
これが決定的瞬間の切り取りなのか!という感じだった。
ところで以前、台湾を取材で歩き回っていたとき、
僕もカメラ片手に街を徘徊したことがある。
台湾の路地裏生活を、台湾文化の欠片をスナップするぞ。
と、意気込んでいた。
すると、床屋の片隅で台湾オヤジ4人が真っ昼間から
マル麻雀なるものをやっていた。台湾の麻雀は、牌が丸い。
そして、切り牌は日本のようにお行儀よく一列に並べたりせず、
まんなかにジャンジャン捨てていく力強い打ちっぷりである。
激しく牌がぶつかる音と、威勢のいい台湾語が飛び交っていた。
麻雀は公園などでもよく見かける風景だが、床屋の店先というのが何ともいい。
これだ。と思い、店先を通りすぎざまにシャッターを切った。
やった!手ごたえを感じた瞬間、なにを思ったか僕のアホ・カメラは
オートでストロボを焚きやがった。
打ってた4人は一斉にこっちを振り向き、
その中の一人の顔がみるみる真っ赤になっていった。
こっちもビックリ。とりあえず全力で逃げてみた!
が、台湾の細くてゴチャゴチャした路地裏じゃ逃げきれるハズもなかった。
僕が観念すると、そのオヤジは台湾語で思いっきりまくしたて、
カメラを奪うと手当たり次第にスイッチを押しまくり、
フタを開けフィルムもバッテリーも放り出してしまった。
近所のおじさんが止めに入ってくれたおかげで、その場はなんとかおさまった。
あとで知ったが、台湾はギャンブル禁止。
だから競輪や競馬はもちろん、街ではパチンコ屋すらほとんど見かけない。
あのオヤジたちは、お酒と賭け麻雀が大好きな人たちで、
僕が撮った写真を警察に持っていくと思ったらしいのだ。
というのは、止めに入ってくれた近所のおじさんから聞いた話。
「悪いもんに引っ掛かっちゃったねぇ。」と、逆に同情すらされてしまった。
その後、そのおじさんが取り返してくれたおかげで、
全てのフタが全開になったトホホ状態のカメラだけは僕の手元に戻ってきた。
丸裸にされたそのカメラは、まさに僕自身そのものだった。

ということで1週間おつきあいありがとうございました。
来週は、いま博報堂でいちばん勢いのあるコピーライター、
「LoveBeer?」の斎藤賢司さんの登場です。
コピー同様、キレのあるコラム期待できますよね。
では、では、よろしくお願いしま〜す。

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