リレーコラムについて

あたらしいおうち

西橋佐知子

母の様子がおかしくなってまもなく
親戚のひとりが言った。
「早く施設に入れちゃいなさいよ」

まだまだ母は大丈夫、そう信じたい時期だったこともあり
なんてかわいそうなことを言うんだろう…と
少しショックだった。
私たちの気も知らないで。

でもよく考えれば
(“入れちゃいなさいよ”という
ぞんざいな言い方を抜きにすれば)
親戚がそう言ってくれるのは、実にありがたいことだった。

お年寄りは最後まで家族が面倒を見るべき
という空気が、日本ではまだまだ強い。

一方で、
介護離職で生活が行き詰まり、心中をはかる。とか
老老介護の末、夫が認知症の妻に手をかける。とか
そんな哀しいニュースがあとを絶たない。

親には長生きしてほしい。
「こんな生活、あと何年続くんだろう…」
そんな気持ちにはなりたくないからこそ
介護をプロに頼ることは重要だ。

一見意味不明に発せられる言葉の真意を探るにも
不条理に見える行動を理解しようとするにも
心の余裕がなくてはならないし、
まず自分が健康でいなければならない。
もちろん、自分の生活が安定していることも大切だ。

親戚に、逆に
「なぜ施設になんか入れるの?」
「なぜあなたたちが面倒みないの?」
と言われていたら、とても苦しかったろうと思う。

母が安心して暮らせる施設を探すために
姉弟と、いくつもの施設を訪ねた。
そこに暮らすたくさんの人たちの姿を見て
日本の高齢化社会って、こういうことなのか、
と思った。

健康であろうと努力すること、は
老後への最大の備えだな、とも。
誰も、好きで衰えていくわけではないけれど。

先週から母は、新しい家で暮らしている。
その施設は、母にとっては新しいおうち。
そこでお世話をしてくださる方たちは
新しい家族だ。

「息子が増えたと思ってください」
私より若いホーム長さんはそう言って
やさしく母に声をかけてくれた。

これからは、母の新しいおうちに
できるだけ遊びに行こうと思う。

*******************
一週間、介護と認知症づくしの
シニアな話ばかりでしたが
おつきあいありがとうございました。

来週は心機一転、ぴっちぴちの若者に
バトンを渡します。

今年の最高新人賞、渡邊千佳ちゃんです。

千佳ちゃんに初めて会ったのは、
彼女が就職活動をしているとき。
そんな彼女が、こんなに立派に成長してもう感無量です。

来週一週間よろしくね。

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