リレーコラムについて

にゃん。

川田琢磨

太陽の暑さで目が覚める。
時計はずいぶん前から止まっているけど、たぶんお昼すぎくらいだろう。
窓の外では、ちょっと悲しげなオルゴールを鳴らしながら、廃品回収車が走っている。

家族がみんな出掛けていなくなった1階に下りると、
乾きかけた冷やし中華が、
サランラップに包まれて、食卓に置いてある。

2階に戻って、テレビをつける。
壊れる寸前のブラウン管は、キーンという音を出しながら、
真っ暗な画面の右上に、ビデオ2という文字を映し出す。

プレステのスイッチを入れて、いつものゲームを始める。
昨日はどこまでやったっけ。

よい子の皆さん、5時になりました。さぁ、おうちへ帰りましょう。
いつのまにか、そんな町内放送が流れる時間になっていた。

学校から帰って来た子供たちの笑い声が聞こえる。

途端に怖くなって、テレビの音を消す。
窓から自分の姿が見えないように、身をかがめる。

僕は、ここにいません。

日が暮れて、会社から帰って来た親が、
ひと言だけ話し掛ける。

明日は、学校、どうするの?

返事はしない。

僕は、ここにいません。
ここにいるのは、僕ではない、知らない人です。
そんなことを、心の中で必死に唱えながら。

中学の頃、僕は不登校だった。

NO
年月日
名前
5726 2024.07.26 麻生哲朗 このターンのアンカー
5725 2024.07.25 麻生哲朗 形のない絵本
5724 2024.07.24 麻生哲朗 汽水域
5723 2024.07.23 麻生哲朗 ピアノマンと嘘
5723 2024.07.21 権八成裕 俺、実は、CM一個考えたんだよ 〜あやしいバイト・後編〜
  • 年  月から   年  月まで