リレーコラムについて

夢見がちな若者

多胡伸一朗

こんにちは。
大したことは何も書いていないのに
書くたびに自分の体の一部が
奪われていくような感じがしている多胡です。
本日もよろしくお願いします。

学生時代、バイトでお金をためては、
アジアや中東などを放浪していました。
インドを一周したり、モロッコを一周したり。
いわゆる、バックパッカーってやつです。

この業界に入った頃の僕は、
有名コピーライターというよりは
蔵前仁一さんや下川裕治さんなどの
有名旅行作家に憧れていました。

ただ漠然と、好きな旅をやりながら
食べていけたらええな〜、なんて
お気楽なことを考えていました。
きっと僕は夢見がちな若者だったんでしょう。

まずは文章を書く仕事に就きたい。
そんな動機でコピーライターになりました。
でも、この職業を続けているうちに、
どんどん広告が好きになり、
広告業界の仕事が楽しくなってきて、
いつの頃からか旅行作家への憧れが薄れていきました。

とはいっても、旅行関連本を扱う
編集プロダクションや出版社などに電話して
アクションを起こしたことはありました。
もちろん何の実績もない僕は相手にされませんでしたけど。
自費で世界一周して、それを独自の視点でまとめた
旅行記を売り込むくらいの気迫がないと
ダメなんだと思います。

新卒でひろってもらった制作会社では、
住宅設備機器関連の
カタログやパンフなどをせっせと作っていました。
はじめて担当した風呂釜のチラシの
刷り上がりをもらった日、うれしさのあまり、
ニヤニヤしながら、スキップのような軽快な足取りで
梅新交差点の歩道橋の上を歩いたのを鮮明に覚えています。

それから数年後。
旅行作家への憧れがまだ少し残っていたのか、
苦手な長文を克服するためだったのか、
小説教室に1年くらい通ったことがあります。
先生は芥川賞作家でした。

小説教室では、先生から出された課題をテーマに
原稿用紙10枚分くらいの
短編小説を書いて授業で発表します。

僕は、書いたことのない小説を必死に書きました。
自分なりに、心理描写や情景描写を織り交ぜ、
小説らしく体裁を整えて完成させました。

それを読んだ先生から言われたのです。
「キミの書いた小説は、コピーっぽい」と。

リアクションに困りましたが、
先生のその言葉があまりにも鮮烈で、
「やっぱりお前はコピーライターだ!」と
はっきり言ってもらえたような気がしました。

学生時代、旅行作家になると鼻息を荒くしていた僕が、
コピーライターとして生きています。
そして、相変わらず、この仕事が楽しくて仕方ないです。

でも、旅への思いが、消えることはないと思います。
今でも、空港や書店の旅行記コーナーなどに行くと、
アイツに出くわすことがあるのです。
大きなバックパックを背負って、
うれしそうな顔で地球の歩き方を開いているアイツに。

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