リレーコラムについて

全文アレになってる小説

多胡伸一朗

『隙のない先生が好き』

 

その想いはとても重いものだった。

黒板にチョークで数式を書くその後ろ姿を見るだけで、僕の胸は超苦しくなった。生徒が教師に恋をしても上手くいかないことくらい重々承知しているが、わかっていても気持ちを止められないくらい僕は重症だった。

きっかけは、教科書を忘れた僕に「先生の教科書、今日貨しょうか?」と優しく言ってくれたことだった。

今すぐにでも「好き」と伝えたいけれど、先生には全く隙がない。僕みたいなやつから急に告白されたら、驚いてコークを吐くかもしれない。

ただただ過ぎていく日々の中で、僕の心にひびが入る出来事があった。その日、僕は悩みながら夜の闇の中を歩いていた。酔っ払いしかいない駅前の繁華街を通った時、急にそれが視界に飛び込んできた。

(えっ、ジャマイカ料理店の前にいるのは先生じゃまいか。しかも、一緒にいる男は校長先生に間違いないっしょ)

二人が腕を組んでいることに気づき、僕は傷ついた。まさかの遭遇に、崖からまっさかさまに落とされたような気分になった。遠くにいる二人のトークが聞こえてきた。

「じゃあ、カラオケ、これからOK?」
「・・・」
「さあ行こう、最高の夜にしよう」
「もう、バカなことばっかり言って。あなたの言葉っていつも内容がないようね、うふっ」

校長先生は今日も絶好調だった。その隣にいる先生もますます上機嫌となり、隙だらけの女になっていた。

普段から学校でも先生は校長先生とよく二人っきりで会議していたので、僕はいつも懐疑心を持っていた。あの日、僕が教室で再試の勉強をしている時、先生は妻子ある男とイチャイチャしていたのだ。先生は不倫であることに気づいていないふりんをしているのだろうか。校長先生の家内は稚内出身のおっかない人なのに平然としていられる神経がわっからない。そういえば、校長先生は総入れ歯だが、知っているのだろうか。

今日の僕は、道化師みたいで、どうかしてる。その場から逃げるかのように、陸上選手くらいの速さで僕は暗い夜道をCRYしながら走った。

(ねえ先生、僕が先生とあったかい関係になれる可能性は1%でもあったかい?)

帰宅後、情けない自分を忘れるために酔っ払いたかったが、都合よくそんな酒はない。まあ、自分の心に言い訳したいからと言って未成年が酒を飲んでいいわけがないのだ。ああ、今年のクリスマスも一人で苦しみますか。

片思いの蕾は開くことなく、しりすぼみになってしまった。淡い初恋は、泡のようにはじけて消えた。

本物の愛に会いたい。新しい恋よ、僕に来い。

(了)

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