リレーコラムについて

多少

藤本宗将

はじめまして。電通の藤本宗将と申します。
今年度の新入会員なのですが、
バトンが回ってきたのはこれで3度目になります。
実はこれまでに2回断ってしまいました。
その節は本当にすいません!

最初は会社の後輩・野澤友宏くんからのバトンを
いま余裕がないから勘弁してと泣きをいれて断り、
つぎは先輩である岡野敏之さんから
「一生のお願い」と言われたにもかかわらず断り、
先週の安田健一さんから3度目のバトンを渡されたところで
いよいよ観念した次第です。

お詫びに抱腹絶倒のコラムを書くつもりだったのですが、
TCCに入会してはじめてのリレーコラムなので
自分のコピーライター人生をふり返ってみようかなと。
(※ということで内容はわりと普通になります)

最初からこんな話題もなんですが、
僕には根性というものがあまりありません。

スポーツとかやってこなかったのが悪かったんでしょうね。
いちおう大学のときはライフル射撃競技をやっていましたが、
筋トレとかランニングが必要なさそうだと思ったからです。
だから、社会に出てコピーライターになってから
自分の根性が試されるとは思ってもいませんでした。

それは入社して2年目になったばかりの頃。
ある仕事で先輩のSさんの下につくことになりました。
その最初の打ち合わせで、
1000本コピーを書いてくるように言われたのです。
いわゆるひとつの「1000本ノック」というやつです。

無理だ。

と反射的に思いました。1000本は多すぎる。
僕はまだ未熟ですし、発想力も技術もないのです。
それに生まれつき根性もないのです。
でも、僕は怒られるのが椎茸よりも嫌いなのでした。

そこでこんなアンケートをとることにしました。

Q あなたが指導している後輩に対して
  1000本コピーを書いてくるように指示したとします。
  何本以上書いてきたら許しますか?

統計によって平均的な合格ラインを割り出し、
それをほんの少し上回ることで
(まあ、なかなか頑張ったほうだね)
くらいの感じを狙っていこうと考えたのです。

さっそくフロア中を回り、
同期や先輩をつかまえては質問しました。
あなたのボーダーラインは?

 「えー、やっぱり1000本じゃない?」

 「1000本…かな」

 「1000本って言ったら1000本でしょ」

…意外な調査結果です。
よりによって全員が全員、1000本だと言うのです。
(いま思えば社会人として当然ですけど)

残念ながら目標ラインが1000本に決定しました。

無駄に時間を浪費して
自分の首を締めただけのような気もしますが、
後ろを振り返っている場合ではありません。
1000本書かないと怒られてしまいます。
くりかえしになりますが、
僕は怒られるのが人参よりも嫌いなのです。

何本書いたか途中でわからなくなりそうなので、
まずコピー機用のA4普通紙を2束用意しました。
1束が500枚なので合計で1000枚あります。
書き損じたら、そのつど紙を補充します。
すべての束がなくなったら1000本終了、というわけです。

そこからひたすら書きつづけ、
社外に出るときも紙の束を持ち歩いて書き、
夜通し書いて明け方にはもう出ません!みたいになって、
最後はマシーンのように書いている感じでした。

それでもまあ、人間やればできるもんですね。

次の打ち合わせに何とか間に合い、
僕は1000枚の紙束を抱えて会議室に入りました。
そしたらSさんが僕を見て不思議そうな顔をしています。

「そんなにたくさんコピーとんなくていいよ」

え?

「人数分あればいいから」

え?

「…まさかお前1000本って本気にしたの!?」

え?

ノックはノックでも、
バットがその場になくて本当によかったと思います。
(もちろん冗談ですよSさん)

ちなみにそのときのコピーは
1本も採用にならなかったのですが、
その日の打ち合わせを境に先輩たちの見る目が少し変わって
チーム内で僕の居場所ができたような気がしました。
それからSさんに鍛えられたあいだに
コピーライターとしての基礎体力がついたと思うのです。
根性も多少は身についたのかな。

いまや「100本ノック」みたいな言い方を聞くと
「桁が違うんじゃないの」とか思ってしまう自分がいます。
ノックといえば1000本ですよね!

いや、もうやりませんけど、僕は。

藤本宗将の過去のコラム一覧

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3091 2011.11.21 多少
NO
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