リレーコラムについて

果てしなき相対化の先に。

笠井剛

いよいよ最終日とあいなりました。

昨日までの4エントリーを振り返ってみると、
「自分の文章を相対化するのにいっぱいいっぱいだなぁ」
というのが、自分でも率直な感想です。

とはいえそれは、僕という存在がブランドとして確立していない以上、
いたしかたないことでもあります。
自分の考えを、他人の考え方やアウトプットを借りることで、
自分のアウトプットにしていく。
果てしなき相対化の先に、小さな自分の差異を見つけては、ちょっと喜ぶ。

コピーも、仕事も、人生も。
満足感や達成感を得るために必要なことは、同じですよね。

ただ、ある程度のレベルに達しようと欲するならば、
相応のセンスや努力が必要です。
でも僕は昔から、そのどちらもが非常に中途半端。
だからしばしば、ズルしてショートカットしようとします。

たとえば数年前、AV男優のオーディションに参加したことがありました。
これはあまり人が経験しない強烈な体験をすることで、
自分の差異の扉をこじ開け、相対化しやすくしようというショートカットでした。

「バコバコバスツアー(通称:バコバス)」という素人参加型企画で、
オーディションといっても集団面接形式。
いくつか簡単な質問に答えるだけ。

――好きなAV女優は誰ですか?
「え、えーと……原千尋さんです!」
――AV出演経験はありますか?
「ないです」
――あれ、去年のオーディションに居ましたよね?
「いやいやいやいや、だからはじめてですよ!」
――出演された場合、どんなことをしたいですか?
「自分の快楽だけでなく、ビデオを見る人のことも考えて、
 腰振りつつもカメラアングルとかにまでむっちゃ気を遣ってがんばります!」

結果はそもそもの動機がAV的に不純だったこともあってか、あえなく一次敗退。
早川瀬里奈のAVをもらってすごすごと帰りました。
しかしあの場で目に焼きついた、男どもの毒気を帯びた熱い負のエネルギーと、
それをバッサバッサと笑顔で斬り捨てていく、監督とプロデューサーの冷たい視線。
そのコントラストがすごかった。
残念ながら当初の目的は達成できなかったけれど、
相対化のネタのひとつとしては、それが見られただけで十分でした。

ちなみに、実はついさっき朝まで送別させていただいていた、
3晩目にもチラッと登場した今月退社する大先輩が、
なんとリクルートメディアコミュニケーションズ最後の仕事に、
頼んでもいないのに本コラム初日のエントリーを
見事なまでに相対化していただきました。
すばらしくおもしろいので、今回を総括する〆としてぜひ引用させていただきます。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カサイコラムを拝読させていただきました。

個人的には
とてもおもしろい点がみうけられましたので、
下記に記載いたします。

> 「3億円強奪コピーライター」

3億円強奪って犯罪じゃないのか!と
タイトルから思わず引き込まれてしまうような
インパクトがおもしろい点です。

> 新人賞をとったら自然と書くことになるシステムだとばかり思っていた、
> リレーコラムを待ちつづけて、はや半年。
> いろんな人に「つぎ、指名してください!」
> 的なことを言ったり言わなかったりしつつも、
> 数百人いる会員数を前に
> 「もしかしたら俺なんて一生、順番が回ってこないのでは?」と、
> 半ばあきらめ、うつ伏せ寝で枕をぬらす、そんな夜もありました。

2行で言えることをあえて長ったらしく書いたところがおもしろい点です。
最後の1行で、少し大げさな表現をすることで
読者の笑いを取ろうとするところがおもしろい点です。

> 意外と早い出番に驚きつつ、
> 織田裕二ばりに、いますぐ目薬をさして叫びたいです。

さらにもう一度、ありがちな比喩を重ねることで、
わかりやすく伝わることがおもしろい点です。
思わず読者は全員「キター!」と叫んでしまうだろうと
あさはかに仮説を立てているところがおもしろい点です。

> しかもいま書いていて気づいたんですが、今日は僕の誕生日なんですよ。
> 満34歳になってしまいました。

書いてて気づいたのではないのに、
あたかもそのように自然に表現している。
それをあえて読者にさらけ出すところがおもしろい点です。

> アラサーに「?」のつく年齢になっちまい、ちっともうれしくないはずなのに、
> リレーコラムとかぶるとこんなにうれしいなんて。
> ビバ・リレーコラム・マジック!

読者が飽きていようがまだ本題に入らず、
これでもかと表現力の豊かさを伝えよう
としているところがおもしろい点です。

> というわけで、みなさんはじめまして。
> リクルートメディアコミュニケーションズの笠井剛(かさいごう)と申します。
> これから一週間、リアルなアラサー(?)ワールドをお楽しみいただければ幸甚です。
>
> いきなりですが、私は理系です。
> しかも、学生時代は一留したうえに就活しませんでした。
> 最初に入った会社はネットベンチャーです。
> それ以来、29歳までネット業界にいました。

いきなりですが、というわりには
対して驚きのない事実をあえてもってくるところがおもしろい点です。

> 何が言いたいかというと、
> 「コピーライターはまったくバックボーンみたいなものがなくてもなれる」
> ということです。
> 「そうだ、コピーライターになろう」
> です。

過去の名作をパロディにしながらも、
あえておもしろくしないところがおもしろい点です。

>
> とはいえ、いまこの景況下でそんな求人がないよ、という方もいらっしゃると思います。
> でも、ならぜんぜん違う別の会社に入ったっていいんじゃないか、と思うのです。
> なぜならコピーライターはセンスよりも何よりも、
> 「人生経験」がモノをいう仕事ではないかと思うからです。
>
> 世の中すべてのコピーライターが、コピーライターの人生経験だけしかなかったら、
> きっと世の中は似たり寄ったりのつまらないコピーで埋め尽くされる、と思いませんか。

最後に問いかけて読者をハッとさせようという魂胆。
さらに言ってる内容がたいして説得力がないところがおもしろい点です。

>
> 「歌って踊れるコピーライター」
> 「芥川賞コピーライター」
> 「ヤメ検コピーライター」
> 「宇宙飛行士コピーライター」
> 「3億円強奪コピーライター」
> 「ハリウッドセレブコピーライター」
> 「住職コピーライター」
> 「味将軍コピーライター」
>
> とか、いてもいいと思うんですよ。

数あるわりにバリエーションがきいてないところがおもしろい点です。

> 要は、何か文章を書いたり宣伝会議賞とかに応募したりとかいったことは、
> たとえどこで何をやっていてもできると思うんです。
> むしろ、「いま自分にしかできない経験」を積み重ねつつ、
> 虎視眈々とチャンスをねらう。
> やがてそれが自分だけのオリジナルなバックボーンとなり、
> そこからひり出したアウトプットが、この世界をちょっと変える。

明らかに持論を納得させようという展開にも関わらず、
なんともコメントする気にならないほど薄いところがおもしろい点です。

> コピーライターじゃないですが、
> 宮崎駿が「ナウシカ」をつくったのは40過ぎのおっさんになってから。
> それまでまったく監督として評価されず辛酸を舐めつづけてきたからこそ、
> あの爆発力があったと思うんです。

いわれなくてもわかっていることを
あえて言う親切さがおもしろい点です。

>
> さて、こんなエラソーなことを書いているのは、
> 実は自分自身にこそ、言い聞かせておきたいことだから。

気持ち悪いところがおもしろい点です。

>
> 「あー、辛酸舐めたい。舐めなきゃだめだ」
> ↓
> 「でも辛いのはいやだ……。むしろ、舐められたい」
> ↓
> 「腹が減ったから、とりあえずラーメン二郎に行こう」
> ↓
> 「もう眠たいから、テレ東のおねマス見て寝よ」

(悪い意味で)意味不明な文章をコピーライターという立場で
書いてしまえる勇気がおもしろい点です。

>
> ――毎日そんなことの繰り返しです。
> ああ、こんな人生でいいんだろうか……。
> そして、こんなことを延々と書いている誕生日でいいんだろうか……。
>
> というわけで、まずは一日目ありがとうございました。

ここまで長文を読ませておいて、まったくオチのないところが斬新でおもしろい点です。
3億円強奪を期待した読者を裏切るというか
それすら忘れて構成されているところがおもしろい点です。

> 今週のウィークデーはなぜか5連チャンで飲み会なので、
> 今日をふくめしどろもどろな文章になってしまうこと請け合いですが、
> のこり4日も何卒よろしくお願い申しあげます。

たぶん飲み会がなくシラフでもおもしろくないところがおもしろい点です。

>
> 「下ネタやって!」
> とリクエストがあったので、
> 明日は下ネタでがんばりたいと思います。
>
> おやすみなさい。

読んでも何も得られない文章があるのだと、
自らが犠牲となり伝えようとした深いメッセージ性がおもしろい点です。

以上
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

はっはっはっはー!(爆笑)
いや〜、相対化って、本当に必要なものですね。

それでは皆さま、5夜にわたりスキゾかつパラノな
世迷い言にお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
ご意見・ご要望・ご叱咤・ご依頼・ご相談等がもしございましたら、
↓のアドレスまでご連絡いただければ幸甚です。
go3_z14v2(アットマーク)yahoo.co.jp

さて、来週のコラムですが、
僕が入社して以来ずっと同じ部署で、
一昨年新人賞をとった横田俊郎くんにお願いしようと思います。
映画会社出身の道産子で、
そのシニカルでウィットに富んだギャグセンスは、
「リクルート史上最狂」の呼び声も高い彼。
きっとめくるめく一週間が展開されることでしょう。
玉井→笠井にひきつづき近場で恐縮ですが、
普段なかなかウチにはバトンが回ってきませんので、
何とぞご容赦ください。

一週間ありがとうございました。

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