リレーコラムについて

二毛作ジェルのワナ。

谷山雅計

4回目。きょうのコラムは「自爆企画!25年前の文章。」というタイトルで、ぼくが学生時代に、とある雑誌で書いていた雑文を再掲載してじぶんで笑う・・という捨てばち、かつ自虐的な試みを考えていたのですが、どんなに探してもその雑誌が見当たりません・・(ほんとうに)。
残念ですが、予定を変更します。このリレーコラムは、コピーライターをめざしている学生さんの読者も多いと聞いたので、ちょっとまじめにコピーライティングの話をしてみます。タイトルは「二毛作ジェルのワナ」。なんだか、ふざけている感じですが(笑)。

コピーを書き始めたころ、誰しもが悩むのは「なんで自分がこんなに素晴らしいと思っている自分のコピーを、他人はいいと認めてくれないのか?」というジレンマだと思います。 
そして、その難しさの根本には、「書き手のよろこびと、受け手のよろこびはちがう」という絶対的事実が大きな原因としてあるような気がするのです。

コピーを書いてるときって、書き手だけが味わえるよろこびってあります。
例えば、こういう条件とこういう条件、2つを1つの言葉の中にこめることができた、やったー、できたーというよろこび。言葉あそび系のコピーなら、これとこれを上手にシャレにすることができたという嬉しさ。書いていて書いている自分の苦労が報われてよかったと思う気持ちがあるじゃないですか。
で、自分がやったーって感じたからこれはいいコピーに違いないんだって思いこんじゃうことが、よくあるような気がするんです。
でも、当然のことですけれども、コピーの受け手は、書き手のやったーって気持ちをおなじように味わうことはありません。だから往々にして、やったーと思った書き手の喜びはイコール受け手の喜びにつながっていかないんですね。

ぼくは、昔、こんなキャッチフレーズを雑誌広告で見たことがあります。
「二毛作ジェル。」
商品は、ある化粧品会社から出た、髪のスタイルを整えながら髪に養分も与える、2つの用途をもつ男性用ジェルでした。
ぼくは、このコピーを書いた作者の思考回路が、痛いほどわかります。
「2つの用途がある・・2つの髪にいいことがあるジェル・・2つの髪、2つの髪・・あ、二毛作!!やったー、書けたー」と思ったのでしょう。
そして、スポンサーさんも、商品特長が言えてるねとOKを出したのかもしれません。
しかし、このコピーを冷静に受け手の目から見てみましょう。
男性用ジェルというのは、2つの用途があるのも大切だけれども、そもそもそれ以前に、おしゃれをして女の子にもてたい・・とかの動機で使うものですよね。そう考えると、基本的にはおしゃれじゃない言葉はつらいものがあります。
農業関係の方には非常に失礼ですけれど、「二毛作」という言葉は決定的におしゃれじゃないですし(笑)、おれ、二毛作ジェル使ってんだぜ、とかって絶対ひとには自慢できないですよね。
結局、書き手は喜んだが受け手からすると全然うれしくない言葉になってしまった・・というある種の代表的コピーではないかと思うんです。

さて、他人のコピーを批評するのはカンタン。問題は、じぶんが書くときに、どうすれば「書き手のよろこび」と「受け手のよろこび」を一致させることができるのか。
もちろん、とにかく数を多く書いて経験することも大事でしょう。
でも、ひとつ、ぼくはあるやり方というか、ルールを考えました。
それは「意味で書いて、生理でチェックする」ことです。
人間は書くときには意味や論理で書くのですが、受けとるときには意味よりも先に生理的な部分で受けとります。
これは糸井重里さんからうかがった話なのですが、「この香水はうんこのような香りはしないすばらしい香りです」という文があったとして、論理としては「この香水はすばらしい香りです」という意味を述べているわけだけれども、受け手からすると「うんこのような」という部分が生理としてまずぱっと目や耳に入ってくるから、くさいイメージしか残らないじゃないですか(笑)。
その構造をつかみさえすれば、まず書くときには、論理や意味で書くんだけれども、それを自分自身で生理的にはこれはどうなんだというふうに後でチェックすればいいと思うんですね。
コピーを書くときに、よく「受け手の気持ちになれ」ってアドバイスされますが、それってけっこう難しい。だって、やっぱりじぶんは受け手じゃなくて書き手なんだもの(笑)。それよりも、「生理的な見方ではどうなのかと」いうふうに考えてチェックしていくと、コピーの選択眼というか、ある種の客観性に近いものが身についてくるような気がするんです、ぼくは。

きょうはプロのみなさんにとっては、当たり前のことを再確認するようなコラムになってしまいましたが。以上です。

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