リレーコラムについて

ある諦めのつけ方。

星野俊夫

40歳になったら、どうしても行っておきたい場所があった。

冬のニューヨーク。
昼すぎにグッテンハイム美術館を出て、
ゆっくりと歩きながら、途中ホットドックをつまんで
セントラルパークを西に抜けたら
夕方には十分間に合う。
アッパーウェストと呼ばれる地区にその場所はあった。

ダコタハウス。

ジョンレノンが撃たれたその場所を、
ジョンレノンが撃たれた同じ歳に、訪れてみたかった。

11月、ニューヨークは暖かい。雨さえ振らなければ。

意外なほど、あっさりとその建物は建っていた。
高校3年生の冬、ニュースで見たあの現場を何回も横切った。
いかにも身なりのよい家族が、中に消える。守衛が怪訝な目で見る。
入り口の左右にはトーチ。観光客がポロポロやってくる。
でも、何もなかった。
当たり前だ。事件から23年も経ってたら、気配なんて残るわけがない。

ジョンレノンは40年かけて、ここに来た。
私は40年たって、ここにいる。

あちら側と、こちら側。
同じ場所に立ったとしても、決定的な別の世界があった。
そりゃそうだ。ジョンレノンと星野俊夫だ。
同じわけがない。

大学の時、ひょっとしたらオレはビートルズかもしれないと
バンド一色の学生生活を送った。バイトも音楽一色。
研究室や製図室より、煙った部室で練習してる方が長い学生時代。
コンテストとか出て最終までは残るんだけど賞は取れない。
音楽のことだけ考えて、思い付くことは全部やってみて、
でも向こう側へ突き抜けられなかった。

ようやく、諦めがついたよ。
おれはビートルズじゃなかったよ。

記念に、その場所を、23年後の空気を録音した。
帰国して聞いたら、ただの街の騒音だった。

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