リレーコラムについて

視野が狭い

宮坂和里

「今話題のCMソング、初披露です!」
音楽番組でそう紹介される曲を、知っていたためしがなかった。
CMを見ていなかったわけではない。
端的にいうと、BGMが聞こえない耳をしている。
音として一番前に出ているナレーションを聞いていると、同時に後ろで流れている音楽を聞くことができないのだ。
これはドラマや映画なんかでもそうで、セリフのあるシーンでは後ろに流れている曲をほとんど聞いていない。
正確には、BGMが流れていること自体は認識しているし、それによってつくられている雰囲気も感じてはいるのだが、雰囲気を感じ取って満足してしまうのでそれ以上その音に注意を向けることができない。
唐揚げのお皿に乗っているパセリと同じくらいの存在感、と言えば伝わるだろうか。
それがあることでぱっと見の満足度は上がるが、なくても文句を言うほどではない。
主役はあくまでも唐揚げで、感想を言うのも唐揚げについてだけ。
時間をかけてパセリの味を堪能したりはしないし、後日パセリ単体を味わうことで唐揚げの味を思い出したりもしない。
(個人的にはパセリが大好きで、いつも誰も食べない付け合わせのパセリを喜んで食べているし、スーパーでわざわざ買ってきてそのまま食べたりもするのだが、ややこしくなるのでその事実はないものとする)
結果、BGMを記憶することができない。
だから、映画のサウンドトラックアルバムの魅力が全くわからなかったし、それを聞いて「あのシーンだ〜!」などと盛り上がっている人たちがまるで超能力者のように見えた。
セリフを聴きながら同時に後ろの音楽まで覚えるなんて、やっていることは聖徳太子と変わらないじゃないかと思う。
わたしにとっては難しい。

これがタイトルにある、「自分の視野が狭い」と感じる理由の一つだ。
他にも理由はいくつかある。

例えば、絵が描けない。目の前のものを模写することはできるが、何も見ずに絵を描くことができない。
絵を描いた経験が少ないからだと言われれば確かにその通りなのだが、それにしたってあまりにも不得手なのだ。
具体的にいうと、「金魚を描いてください」と言われて、ただの魚のピクトグラムのようなものを描いてしまう。
金魚の姿を細部まで思い出すことができないからだ。
赤くてまるっこくてひらひらしていたな…というイメージは浮かぶものの、そのひらひらがどこについていてどのようにカーブしていたか、どの部分がどう丸みを帯びていたかがさっぱり思い出されない。
おそらく普段金魚を見るときに、「あれは金魚だ」という情報をキャッチした瞬間に注意を向けることをやめているからだと思う。
そこにあるものが何かを判断できれば満足であり、それ以上見る気は起きないのだ。
わたしはおそらく日常で目に映るもののほとんどを、そのように見ている。

どう頑張ってもそうなってしまうというよりは、その状態が心地よくてついそうしてしまっているというほうが近いかもしれない。

なぜそう思うのかというと、これまでの人生を振り返って、一番生きやすかった期間が受験期だったからだ。
これが、先の理由の三つ目である。
テレビも漫画も好きな音楽も全部禁止して、ごはんの時もお風呂の中でも何かしらの知識を頭に詰め込む。
苦しさはあるが、やらなければいけないことが抜群にわかりやすい。
気力と体力と時間の全てを模試の点数を上げることだけに全振りして、その他のことは二の次でいい。
そういう精神状態がある意味で楽だったし、充実感を得られた。
視野を狭めることを正当化できる期間だったからではないかと思う。

つらつらとこんな話書かせていただいたのは、「なぜコピーライターになりたかったのか」を考えた時に、「企画がしたくて、かつ、視野が狭かったから」という答えに行き着いたからだ。
幾度かされたことのあるこの質問に、その場その場でそれらしい答えを出してきたけれど、よくよく考えてみると今はこうなる。

何かを考える時に、「まずは言葉で」という条件がついていると圧倒的にやりやすい。
集中するべき分野が明確になっていることで、視野の狭さを活かせたりする。
コピーライターになれたおかげで、今は受験期よりも生きやすい。

 

 

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はじめまして。同期中の同期な河内くんからバトンを引き継ぎました、博報堂の宮坂和里と申します。
河内くんのコラムにも書いてあったように、彼とはかつての配属ビビり仲間です。

ある日の研修終わり、「アホやな〜」とツッコまれることを期待して「わたし、内向的な性格だと思われようとするあまり人事が前で喋ってる時窓の外とか見ちゃうんだよね…」と言ったら「え〜!俺も!!」と明るく同調されてしまい、アホやな〜と思いました。そんな同期とTCC同時入会、大変感慨深いです。

視野狭人間的にはお題フリーのコラムはかなり難題ではありますが、これから何本か書いていけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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