リレーコラムについて

手元の時計

山口慶子

昨年はサッカーワールドカップ、今年はWBCの中継を、片付けをしながら観戦。
スポーツ観戦をテレビで、という共有体験が見直されたのか、高視聴率なのは何だか嬉しい。

 

応援する瞬間は、感情の筋肉がキューっとなってカタルシスが得られるから、
人間はスポーツが好きなんでしょうか。

以前も書いていたみたいですが、学生の頃、アルバイトで
「横浜国際女子駅伝」の構成作家助手をやらせてもらいました。

スポーツの生中継って、その場を映しているだけじゃないんです。
1年かけて原稿を練り上げ、選手と一体になって伝えていることを知りました。

「ドラマを掴め。スポーツはドラマだ。」

学生の私に番組エンディングの原稿を任せて頂き、毎日指導を頂きました。
「これで感動させられるか?」「選手の気持ちに寄り添っているか?」
ダメ出しの連続で、もう書けない!と思ったところからが本当に書くということだと
身をもって理解した体験でした。

さらに本番一週間前、実況する中継車に乗るように指示を受け、
そして本番前日、「時計をやってみなさい。」の指示。「時計?」

それは区間記録を速報するために「手元の時計では〇分〇秒です」というアレでした。

ストップウォッチをバトンが渡った瞬間で押し、次のバトンでまた押し、
その時計をアナウンサーに見せ、アナウンサーがそれを見て電波に乗せる・・・。
押すタイミングを逃したりリセットしてしまったら台無しです。

緊張の瞬間を何とか無事終え、エンディングの原稿へ。
メインアナウンサーが音楽に合わせて読み、ロールスーパーが出てEND。

ことばと格闘し、生きたことばになるために人間としての選手を取材しつくり上げた時間は、
ライターだけではなく選手から中継技術者まで大きなチームワークでできていました。
ライターだけではつくれない世界があったんです。

そして、その時の番組の企画自体が女性の未来を応援していたことに後で気づきます。
「手元の時計」は、リレーする人が更新していくベンチマークとドラマそのものでした。

WBCの感動も同じドラマを共有できたから日本だけじゃなく世界が感動したんですね。

パンパンに古い書類が詰まっている大判封筒が押し入れにまだいくつかゴロゴロ。
開かずの封筒を開けると、大切な景色を思いだすこともあります。

(実は今朝コラムを12年前に書いていたことを知り、コラムは初めてだと思っていた
自分が恐ろしくなりました。すみません。記憶ってそんなものでしょうか…嗚呼。)

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