リレーコラムについて

歯医者さんを探しています。

細田高広

どうして僕は広告会社に入ったんだろう。
このコラムを書くようになって考えた。

よくある「将来の夢」というやつに、
小学校を卒業するときは、大学教授、と書いた。
高校を卒業するときは、ジャーナリスト、と書いた。
そんな僕が何故、広告会社にいるのだろう?

で、思い出したのである。

僕には、
コピーライターとしてのデビュー作があった。
あれは、14歳の頃。

市が主催する虫歯予防週間のポスターコンクール。
保健委員だった僕は、
締め切りの前日に保健室の遠藤先生♀から
「絶対出品しなさいよ」と言われ、
慌てて家で画用紙を広げたのだ。

しかし、何から描いていいか全く思い浮かばない。
ありきたりな歯磨きの様子をスケッチしながら、
時間だけは過ぎていった。

どうしよう。このまま朝を迎えたら。どうしよう。
そもそも、なんで俺は保健委員会なんかやってるんだ。
対して優しい奴でもないのに。あぁ、テスト勉強もあるのにな。
くそー。なんだか泣けてくる。しくしくしくしく・・・

ん?

閃いてしまったのである。

僕は絵の具を用意して
画用紙一杯に泣きじゃくる
歯たちを描いた。一心不乱に。
そして最後に、空いたスペースに四文字の漢字を
黒の絵の具でしたためた。

歯苦歯苦。 

悩んだ挙げ句に、ふりがなもふった。
「しくしく」と。

作業に熱中して気がついたら朝になっていたが、
妙な清々しさは残った。

後日、僕のポスターが準グランプリになった
という知らせが届いた。
先生たちもたいそう喜んで、
特別にケーキをご馳走してくれた。

授賞式。
審査委員長である市の偉い人の講評で。

「これ、『しくはっく』と
 読ませていたらグランプリだったかもね。ははは。」

悔しかった。

隣りの遠藤先生が、「あのクソやろう。」と
保健の先生らしからぬことを言ったのが今でも忘れられない。

ただ、あの時、
自分がつくったものが褒められる喜びと、
もっと出来たのではないかという後悔、
その二つを、凝縮して一度に味わったのだ。
広告を仕事にするきっかけがあるとしたら、
あの一枚のポスターかもしれない…

という話を、ちょうど目の前の席にいる
三茶で住まいでADのK杉さんに話したら、
そのコピーかなりいいよ!と言われ、
また冗談を、と切り返したのも束の間、
数分後にはラフが出来上がっていた。

デビュー作の復活である。
何故かフランス風なのがやや気にはなるが、
力の抜けた妙な味のあるポスターに仕上がっている。

http://picasaweb.google.co.jp/lh/photo/iqZx2eh8ihAd1DFN-_46Ww?feat=directlink

たまたまこのコラムを読んだそこの歯医者さん、
どうですか?使ってみませんか?

***

僕のコラムは、今日で終わりです。
色んな方から読んだ感想や意見を頂きました。
中でも印象に残っているのは、72歳になられたばかり、
という会社の大先輩からの便り。
見守ってくれている先輩がいる、それだけで
僕は大きく励まされます。

さて、次のランナーは会社の同期で、
TCCの同期でもある熊谷正晴くん。
最初の配属でも向かいの席同士で励まし合ってきた仲。
リズムのいい、活きた言葉を書く男なので、ご期待下さい。
連休明けの5月11日から書いてくれる予定です。

それでは皆さん、いい連休を。

細田高広

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