リレーコラムについて

スペインでの恋話 前編

細田高広

大学時代、オランダに留学していました。
ちょうどサッカーの小野伸二選手がフェイエノールトに、
藤田俊哉選手がユトレヒトに来ていた頃です。

オランダは小さな国ですが、
実に便利な場所にあります。

電車に乗って油断しているとすぐにベルギーで、
その先にはフランス。ドイツならバス圏内。
そんなわけで、大学が休みになる度に
ヨーロッパの色んな国を回りました。

今回書くのは、バルセロナでのお話。

一緒に旅をしたのは、
韓国からきた留学生のS君。
お父様が外交官だった関係で、
ずっと世界を転々としてきたといいます。

英語力。知識。国際感覚。
留学生のお手本みたいな男で、
ちょうど僕の2つ上。

春の授業シーズンが終わり、
暖かくなってきたタイミングで、
「バルセロナに行かないか」
と声をかけられました。

断る理由もありません。
格安のチケットを見つけて、
3日後には、もうバルセロナにいました。

サングリア飲んで、
ほろ酔いのままガウディ観て、
買い物して、美術館を巡る。
おなかが減ったらスーパーでパンと生ハムを買う。
今振り返っても、楽しい旅でした。
男2人の、気楽な旅。

夕方くらいに一度宿で眠り、
夜また街に繰り出します。
僕らはそこで、お気に入りの
オイスターバーを見つけ、毎晩通いました。

そのバーで、S君が言うのです。

「あそこの店員の女性、どう思う?」

僕がチラッと視線を向けます。
クリクリの目に、黒髪。小麦色の肌。

「かわいい!」と条件反射で口にしました。

S君は、「チッチッチッ」とばかりに指を振り、
「タカは趣味が悪い」と言いました。
失礼なやつです。

その後も、変な問答は続きました。
目立つ女性が通るたびに
S君は「どう思う?」と尋ねてくるのです。
ときには「あの男は?」みたいな冗談も交えつつ。

そんなこんなで最後の夜。
再びオイスターバーで
例の問いが始まります。

S  「あそこにいる女性はどうだ?」

僕  「うーん。ちょっと派手かな。」

S 「じゃあ、俺はどうだ?」

僕 「ははは。それ、ジョーク?」

S 「違う。」

僕 「・・・?」

あれ、
ちょっとテキーラ飲み過ぎちゃったかな。
言っている意味がわからないぞ。

混乱している僕に、S君は続けます。

「さて。これを言っておかないと、
タカとの間の壁がBreakできない。」

何だ?・・・何を言うのだ?
・・・何をBreakするのだ?

そのとき僕は、
背中に氷を落とされるような感覚を
味わっていました。

〈続く〉

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