リレーコラムについて

スペインでの恋話 後編

細田高広

「俺は、ゲイだ。」

S君から、そんな言葉が飛び出しました。
でも同性愛同士結婚が認められている
オランダですから、珍しいことでも
変なことでもありません。

ただ、次に続くセリフを予想して
僕は恐れていたのです。
その瞬間はすぐにやってきました。

「お前が、好きだ。」

きた。きてしまった。やばい。
僕にそっちの気がないことを
ちゃんと伝えなければ。

「大変悪いのだけど、俺はストレートだから。」

なんとか切り返します。
するとS君は、予想していたかのように
ニヤリと笑って言いました。

「タカはまだ、気付いてないだけだ。」

俺は・・・気付いてない。
マジかー。
そうだったのかー。
気付いてなかったのかー。
S君のセリフにぐらぐら揺さぶられます。

そして攻撃は、まだ続くのです。

「タカは、on the lineだ。」

タカはオン・ザ・ライン・・・。
タカは線の上・・・。
綱渡りしている自分の像が、頭に浮かびます。

ちょっと押したら、
アナザーサイドということ?

というか今、
押されているってこと?

あまりにも断定的な言い方に、
僕は自信を失いかけました。

言われてみれば、
深く考えたことなかった・・・。

「答えは急がない」

そう言われて、
気まずいまま2人で
ロッテルダムに帰りました。

誤解無きよう結論から言うと、
僕は150%女性が好き。
そのことはS君にも、
しっかり伝えました。

その後もおもしろがって、
S君は彼の仲間が集まるBarなどに
連れて行ってくれました。

僕がそれまで
覗いたことのなかった世界。

そこで思ったのは
性別ってグラデーションなんだなぁということ。
男か女か。その間には
ゆるやかな濃淡が広がっている。

考えてみれば、民族や宗教も同じです。
教科書的な区分だけではうまく把握できない。
この裾野の広い曖昧さこそ、世界なんだ。

留学から帰ってきたとき
みんな同じ髪の色で、
みんな同じ言葉を喋ってる日本って
特殊なんだなぁと強く思いました。

外国かぶれは格好わるいけど、
ときどきその感覚は
思い出すようにしています。

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