デザイナーS氏
彼が大広に入ったのは3年ほどまえだ。打合せ中にオシャレを「お酢落」と書いて
オスレ!と呼ばれたのが始まりだ。今の若い子が漢字を書けないのとは
レベルが違う。何かが違う。旅行関係の仕事で、「ひゆ」というので何のことかと思ったら
「秘湯」だった。戦争反対!は、「ノーモア ワー」と言う。じゃ、「スターワーズ」って、
言うのか?と聞いたら、平然と「それは複数形ですから」と切り返す。いわゆる
開き直りが彼の場合、とても面白い。夜、メシ屋で、果物の話になり、「マンゴー」
知ってる?当然のように彼は知らない。じゃ、「パパイヤ」は?これも知らない。
話はすすんで、会計をすませ、店を出たときだ。「安路さん、こんど、その
「ママンゴ」食べますか」と、言った。ふたつの果物が彼の頭のなかで、
「ママンゴ」になっていた。聞いた話だが、蕎麦屋では、スノコがかかっていますね、
とスダレを指していったらしい。どことなく分かる!ギリギリの線だ。
「テニスをする」を英語で、「ジャスト ドウ イット プレイ テニス」と言う。
演技なのか?天然なのか?一時、物議をかもしたが、そんなことは
どうでもいい。付き合っていくうちに、私は彼のファンになっていたのだ。
土砂降りの日、帰ってくるなり、「水を打ったように雨が降ってますよ!」
という。八宝菜を、八百屋に買いに行った。「メープルソープ」知ってる?
と聞いたら、「知ってますよ!ロバートでしょ?女優ですよ」たぶんメリル
ストリープのことだ。そんな彼にも得意技があった。彼は、般若経が読めるのだ。
一回、会社のブースで読んでもらった。背筋が寒くなった。
最近では、エベレスト山の高さを聞いたら、「10キロくらいですかねえ」といった。
高さをキロで表現する人を私は初めて見た。昨日、このコラムにSのこと書くよ!
と言ったら、彼は言ったらしい。
「安路さん、また僕のこと、けなしものにして!」
けなす+さらしもの=けなしもの! なんと魅力的な言葉だろう。