あの世への留守録
田中麻子
小山明好さんというコピーライターが、去年の春、この世から
退場された。TCCの会員でもあったからご存知の方も多いと思
うが、この小山さん、子どものようにダダをこねるかと思えば
ガンコじいさんのように哲学をもらす、おしゃれでかっこいい
おじさんだった。歩くワイセツぶつと呼ばれるほど、目つきに
色気があった。クライアントや仕事仲間、部下からの信頼が厚
い一方で、甘えじょうずなところがあり、とても愛される存在
であった。
小山さんのもとで、コピーライターの修業をしていたことがあ
る。9時半に出社して、ビルが閉館になる11時までほとんど机
から動かない缶詰生活だったけれど、小山さんのまわりには、
南向きの縁側でまどろんでいるような雰囲気がただよっていて
(二日酔いのせいもあったっけ)、どんなにそれに救われたか
わからない。
わたしの書いたコピーがろくでもないとき、小山さんは「いい
コピーができないのに、プレゼンの日が来てしまったことがあ
って、でもその朝、電車の中でとつぜん生まれたフレーズが、
ビートルズを聴いて育ちました」…自分のことを話しながら、
もっとねばれ!と無言で迫るのだった。だからわたしはネチネ
チと「カリブの大漁節」、「ハワイ一回、ミンク一生」のよう
な、いまでも好きなコピーを大量生産していた。
おととい、その小山さんが夢にあらわれた。ストーリーは忘れ
てしまったけれど、メッセージだけが残された。「あそこに2
時までに留守録を入れてくれれば、必ず連絡がつく」。そう小
山さんは確かに言った。え、あそこってどこなの? 2時まで
とか留守録とか、みょうにリアルなんだけど1体どういう意味
なの?ねえ、こたえてよ…小山さ〜ん。
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