リレーコラムについて

物書きの独りごと

柏木新

 コピーライターの柏木新です。
 柏木新は稼業上の通り名で、税務署にも「新」で申告しています。
 正通が本名なんですが、このままではなかなか正しく読んでもら
えない。気安く呼んでもらえる軽さがない。で、日本デザインセン
ターという制作会社に入社したとき、「新」と変えてしまいました。
 先輩たちから「新公」といわれ、「新ちゃん」と呼ばれているう
ちに、いつか「新さん」と呼び掛けられるようになりました。中国
系の人たちは、柏木新を「ポウ・ムウ・シン」と読んでくれます。

 二十五年ほど前になるかなあ。
 コピーライターたちが集まって催している、「こふみ会」という
句会に誘われました。俳号を柏木不実にしました。その頃はまだ、
だいぶ衒があったんでしょうねえ、きっと。不実な男で何をやって
も実ることがない。わざわざそんな突っ張ったのを選んだんです。
 もう八年ほど前になるかなあ。
 ただただポルノシーンとチャンバラシーンが書きたくなり、小説
を書きはじめました。動乱期の明木清初という設定で、中国大陸を
舞台にした娯楽時代小説です。竿名は雑賀俊一郎。紀州雑賀一族の
裔であるかみさんの名字をもらったのです。それからは、名刺にコ
ピーライターという肩書きを入れず、「物書き」を自称しています。

 こういう生業で、俳句と小説もやっているというと、ときどき訊
かれることがあります。「コピーも俳句も小説も、物を書くって作
業でしょ、おなじようなものだからやりやすいんじゃあないの。コ
ピーと俳句と小説の違いがあるんならどんなとこ」というものです。
 それには、取り敢えず今んとこ、こう答えることにしています。
「パスタも蕎麦もうどんの中華麺も、見た目は細長くて似てるよね。
だけど素材が違うし、作り方が違う。それぞれ専門の職人が作って
いる。用途も味もまるっきり違うでしょう」
 小学校の時の同窓会で、幼馴染みの英子さんにはそう答えました。

 でもそれが正しかったのかどうかは、未だになんとなくしかわか
りません。どこがどう違うのか、思い付くまま書いてみましょう。
 まずは文章の量です。
 コピーには、印刷媒体や電波媒体という容器に違いがあります。
それぞれの容器の形・サイズ・時間によって、文字数は自ずと制限
されてしまうのです。読みやすい量があると思います。伝えたいこ
とをずらずらと書き連ねても、読んでもらえるとは限らない。読ん
でもらえなければ話にならない、広告費の無駄遣いってものです。
 とくにキャッチフレーズ、その広告が目指す目的を伝えるために、
削りに削り、絞りに絞って凝縮することを、私は良としてきました。
 広告って「一瞬のインパクト」が大切なのではないでしょうか。
そのためにも、伝えたい思いをギュッと凝縮させるべきでしょう。
 いつ頃だったかTCCのコピー年鑑でも、「一行の力」がテーマ
になりました。「文章の力」ではなく、「一行の力」だったのです。

 ところが小説のほうは、内容にもよるでしょうが、そうはいかな
い。コピーを纏めていくのと反対の作業が要求されます。削りに削
って絞っていったら、話にならなくなってしまうのです。娯楽小説
の場合、受けそうな部分を広げて膨らませて、次に繋げる。二十字
や三十字、いや二百字や三百字で一冊の書籍だとしても、流通に乗
らない、小説と呼ばれないでしょう。誰も買ってくれません。
 ショートシヨートあるいは短編などという分野もありますが、そ
れだって一編を物にするには、四百字詰め原稿用紙に換算して一枚
か二枚、つまり四百字か八百字にはなるんじゃないかなあ。

 こぴーらいたーの習性として、私は長いストーリーを書くのは苦
手にしてきました。開高健さんや山口瞳さんなど、コピーライティ
ングを経験した作家たちは、その辺りのことをどう折り合い付けて
いたのでしょうか。一度話を伺ってみたかった。現役の作家として
活躍中の林真理子さん、松本侑子さん、佐江衆一さん、その他には、
訊ける機会あったら、ぜひお伺いしてみたいものです。

 コピーにはまた、レイアウトという強力なサポートがあります。
 縦書きにしたり、横書きにしたり、文字を大きくしたり、斜体を
掛けたり、位置をいじったり、色を載せたり、一人での多くのター
ゲットの目を引き、読んでもらう工夫というか芸があるのです。
 俳句のほうは、十七文字という約束というか、ルールがあります。
それで、こっちも削りに削り、絞りに絞って思いのたけを圧縮しな
いと収まりません。だけどそれが表記されるときは、ほとんどの場
合、十七文字を短冊の表面に墨で縦書きされます。格調は高いので
しょうが、なんとなくぶっきらぼうで、芸が感じられません。
 私は、前に一度だけ、短冊に横使いにして書いたことがあります。

    TAXIだけが通り過ぎる台風の街

 TAXIという四文字を、どうしてもTAXIと読んでもらいた
かったからです。続きはまた明日‥‥‥。

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4974 2020.09.30 玉川健司 新居は六本木
4973 2020.09.30 玉川健司 ずっと福岡にいるものと思っていたのに
4972 2020.09.28 玉川健司 中村さん
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4970 2020.09.24 中村聖子 「不要不急」にもエールを。
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