リレーコラムについて

熱闘甲子園

大塚昇

甲子園、真っ盛りです。
僕も、高校生のとき、母校が出場(初出場)したので、
応援に行きました。
そのときのエースは、ドラフト1位で広島カープに行きました。

僕は、健康的で平和な高校生活を送っていましたが、
心の傷になっている出来事がひとつだけあります。

その頃、ちょうどビリヤードが流行っていました。
覚えたての僕は、下手なのですが、
楽しくてしょうがないこともあって、
毎日、友達とビリヤードをやっていました。

ある日、事件は起こりました。

そのビリヤ−ド場は、もともと喫茶店だったのを
ビリヤードブームに乗って、鞍替えした店だったので、
狭いスペースに無理やり、たくさんの台を置いていました。
隣の台の人に触れてしまう窮屈さです。

僕は、台の隅にある球を打ちました。
力の加減がわからない僕は、思いっきり、
馬鹿力を出して、球をついたのです。
目の前に、隣の台でプレーしている人のことを気にとめずに。

「ズボッ」

キューは球に当たらず、何かヘンなものに
のめり込むような感触がありました。

「あ」

女の人がいいました。
なんともいえない声です。

僕は空振りをしたのでした。また、力強く打ったために、
そのまま体が前に倒れこみ、キューがまっすぐ突き進み、
女の人の大切な部分に入ってしまったのでした。

僕が打つときに、隣の台の女性も打つ体制に入っていて、
ちょうど僕のほうにおしりを突き出すような
格好をしていたのでした。
狭い店だったので、僕とその人は
ものすごく接近していたのです。
その人が打ち終わるのを待てば良かったのですが、
ビリヤードが楽しい僕は、はやる気持ちを抑えきれずに
打ってしまったのです。
しかも、力を込めて思いっきり。

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「……」

大丈夫なはずがありません。
女性も周囲の人たちも、きょとんとしています。
何が起こったのか、真相を理解できていないようでした。
まさか、あそこにキューが入ったとは…。
僕自身も信じられませんでした。

なんともいえない雰囲気に包まれました。
しかし、入れたものは抜かなければなりません。
それが、この場での、僕の務めです。

僕は、ゆっくりとキューを引き抜きました。

「あ」

女性は声を発しました。
発したというより、漏れたといったほうが正確です。
あの女性の、あの表情は、いまも心を離れません。

誰にも信じてもらえないのですが、本当の話です。
事実は小説より奇なりといいますが、まさにその通りです。
僕は、あのとき以来、ビリヤードをしていません。

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