リレーコラムについて

「先に救急車を呼んでくれませんか」

公庄仁

世の中は今、ラフカディオ・ハーンブームであるが、
流行に流されやすい私も便乗して
数日前、『耳無し芳一』をちゃんと読んでみた。
純粋に面白い小説であるが、
ひとつ気になったのは、
住職のポジティブシンキングである。

ご存知の通り、芳一は、平家の亡霊に取り憑かれる。
異変に気づいた住職は、

『お前の身は今大変に危ういぞ!』
『お前はその人達に八つ裂きにされる』
『いずれにしても早晩、お前は殺される…』

とさんざん芳一を脅かす。
しかし、

『…ところで、今夜私は
 お前と一緒にいるわけにいかぬ。
 私はまた一つ法会をするように呼ばれている。』

と、
呑気に集会を優先するあたりから
私はこの住職に不信感を抱き始めていた。
余談だがこのあたり、
打ち合わせに途中から入ってきて
「明日のプレゼン、こんな企画じゃ絶対負けるぞ」
と散々こき下ろしておきながら、
「……俺は今日の夜、会食があるから」
と言って消えてしまう、
広告業界の偉い人に通じるものがある。

話を戻す。
その後、有名な「耳にお経を書き忘れる」
というケアレスミスで、
両耳を引きちぎられるも、芳一は根性で耐える。
ちなみに、ちゃんと読んでみて気づいたのだが
お経を書き忘れた理由は、
「他の僧侶に任せたから」であった。
この辺の責任感にも私は苦言を呈したい。
さすがに住職も罪悪感を抱いたのか、

『それを確かめておかなかったのは、
 じゅうじゅう私が悪るかった!』

と一度は謝罪するも、

『……いや、どうもそれはもう致し方のない事だ』
『――出来るだけ早く、その傷を治すより仕方がない……』

と速攻で片付け、

『芳一、まア喜べ!――危険は今まったく済んだ』

と、
まさにいま両耳を引きちぎられ、
大量出血している人間の横で、
勝手に一件落着させる始末である。
なんだか自分の責任を指摘される前に
事件を穏便に済まそうとしているようにも見える。

「いや…でもさ、ほらっ。
 良かったじゃん、そんぐらいで済んで。
 俺、平家にもっと酷いことされた人、いっぱい見てきたよ。
 お前なんてまだラッキーな方だって。
 あ、このあと飲みにでも行く? 
 今日は俺おごるわ」

かなんか言ってそうである。
調子のいい坊主め。

とまあ、こんなありがちな突っ込みでしか
感想が書けないほど、単純に面白い小説だと思った。
本当に。

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サン・アド/POOL inc. 公庄仁
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