リレーコラムについて

ダーリンは中国人:「美女」だらけの国

小森谷友美

その日は、午後に友達と予定がありました。
いつもよりメイクをちゃんとして出かけた私。

北京の地下鉄の駅で降り、
中国語学校へそそくさと向かっていると、

「你好!美女〜」

と呼ぶ声が聞こえました。
その声は間違いなく私に向けられたもの。
振り向くと、アシンメトリーな黒髪の細身男子(推定28)が、
こちらに向かって笑顔で話しかけてくるではありませんか!

残念ながら、当時の私の中国語力では、
「美女(メイニュー)」までしか聞き取れず、
そのあと彼が何か喋りかけてきたのですが、
まったく理解できず私は急ぎ足で立ち去りました。

その夜、ダンナに

「ねえねえ! 今日道端で美女って言われちゃったー!」

と得意げに自慢した私。
するとまたもや衝撃的な一言が…。

「あ、中国では女性を呼ぶとき『美女』って言うんだよ 」

ダンナはそう答え、まったく表情を変えずに
見ていた映画に目線を戻しました。

ガーン!
今日数時間の浮かれ気分を返して欲しい!

次の日、冷静な気持ちで同じ道を通ってみると、
同じアシンメトリー男子は
確かに誰にでも「美女」と呼びかけ、
よく見ると手には美容院のチラシが握られていたのです。

危うく、漢字二文字のキャッチコピーに、
まさにキャッチされるところでした(汗)

この「美女」という言葉。
じつは中国のいろいろなところで耳にします。

例えばレストランで女性の店員さんを呼ぶとき、
それまでは「服務員」と呼びかけていたのですが、
最近は「美女」と呼ぶことが多いのです。

確かに「服務員」と事務的に呼ばれるよりも、
「美女」と呼ばれるほうが嬉しいですよね。
日本のように「すみません」だけよりも嬉しい気がします。

そして会社で女性の同僚を呼びかけるときも
「美女」を使うひとがいます。

これは日本では本当に信じられない話ですが、
それくらい中国男子に恥じらいがないのか、
美女という言葉に、深い意味がないからなのか。
きっと、どっちもでしょう。

レストランにしろ、会社にしろ、
呼び方ひとつでやる気が出たり、
サービスの質が変わるのであれば効果的な言葉です。

ちなみに男性の場合は、
「帅哥(かっこいいお兄さん)」と呼びます。
街中やオフィスでそう呼ばれたら、やっぱり嬉しいですよね。

大学3年生で、人生初めてコピーを教わったとき。

講師だった谷山雅計さんは、コピーライターの仕事は
「ひとに気づき・発見を与える仕事」
だとおっしゃっていました。

例えば、古本屋に行かせる広告をつくるとしたら、

「いらない本にも家賃は発生します」
というコピーで気づきを与えることもできるし、
「お風呂で読んでもいい本が買えます」
という発見を提案するコピーもあり。

そのとき私は、自分が決められた方向からでしか
物事を見れていないことに気がつきました。

まだ全然未完成で、毎日のように闘い、悩んでいますが、
中国で暮らした経験で、常識を疑ったり、
違う方向から日本を見てみることが前よりはできた気がします。
大気汚染とか爆買いなど目立つことの奥にある、
中国の多様な姿にも触れることができました。

コピーライターの仕事は、
苦しいですし向いているのかもわかりませんが、
「人生をより豊かにしてくれる仕事」
だということは断言できそうな気がします。

失恋しても、リストラしても、火星人に遭遇しても、
人生に起こるすべてを肥やしにできる仕事、
なかなかありません!

というわけで、「ダーリンは中国人」全5回のコラムに
お付き合いいただきありがとうございました。

来週からは、同じくダーリンは◯◯人で、
2015年新人賞同期の有本久美さんにバトンをお渡しします。
有本さん、よろしくお願いします!

☆いつかに続きます☆

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