リレーコラムについて

できることとできないことを、しっかり見極める。

渡辺潤平

自分には何ができるのか。
自分にできないことは何なのか。

広告の仕事を長く続けていくためには、
そこをしっかりと把握しておくことが
とても重要だと考えています。

フリーになってしばらくは、
ただ、声をかけてもらえることが嬉しくて、
ほぼ経験値のない領域の仕事とか、
どう進めていいかさえ分からないような事案にも
平気で首を突っ込んで、結果として頼んでくれた人を失望させたり、
迷惑をかけてしまったことが多かったような気がします。

学生の頃は、それでも良かったかもしれない。
けれど、僕たちはプロフェッショナルなわけで。
「やってはみたけど、あまりうまく行きませんでした」
なんて自分本位な言い訳は、根本的に許されません。

結局のところ、頼んでくれる人が自分に期待することは何なのか。
そこをシンプルに突き詰めてみると、僕の場合はやはり
明確でスピードの速い言葉を書くことだったし、
自分自身について見つめ直してみても、
撮影現場にいるよりも、編集室で無理を言ってあれこれ試してもらうよりも、
最低限の知識すら持ち合わせていないくせにwebのディレクションをするよりも、
大学ノートを広げてコピーを書いている瞬間の方が、
圧倒的に充実感を感じていることに気がつきました。

複数の専門性を柔軟に横断できる万能性が、重宝される時代です。
これはきっと、広告の世界だけの話ではありませんよね。
スポーツの世界でも、二刀流とか、ポリバレントとか、
ユーティリティみたいな言葉が注目されるようになり、
いくつものポジションを難なくこなせる能力が、一流の証になりつつあります。

それが、時代の要求かもしれません。
けれど、僕にはそれがどうやっても上手くできない。
それよりは、自分ができることに集中して、
そこにできる限りの力を注ぐ方が、自分らしく仕事に向き合える。
そんな気がします。

技術やメディアの進化とともに、僕たち広告制作者の表現のあり方も
加速度的に広がりを見せています。
それでも、というか、そうだからこそ。
自分がいちばん力を出せるポイントを見失うことなく、
一歩一歩、慎重に、自分を高めていくことが大事である。
そう感じる瞬間が、とみに増えてきた気がしています。

もうひとつ、最近痛感することが多いのは、
どんなに頑張っても、自分が苦手だと思う人とは
うまく仕事をしていくことができないということ。

周りの人間関係や、時代の空気や要求の変化に惑わされることなく、
年を重ねるごとに、ただ黙々とコピーを書いていたい。
それが、自分の未来に対するひとつの理想形です。

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