リレーコラムについて

アクション号泣

安藤宏治

「年を取るほどに涙もろくなる」
よく、そんな話を耳にしていたが、自分も年を取ってみると、なるほどその通りだと合点がいく。50の声も聞こえ始めた今となっては、油断していると、いつなんどき涙がこぼれるかわかったものじゃない。

先日も、自分でも思いもしなかったような場面でうっかり泣いてしまった。うっかりっていうより、ほぼ号泣。その時、自分はアクション映画を見ていた。リュ・スンワン監督による、韓国で大ヒットを記録した、「ベテラン」というアクション映画を。

韓国特有の、持てる者と持たざる者との間に横たわる容赦ないまでの格差。そこにざっくり鉄槌を下す、どちらかというと冴えない中年刑事の奮闘を描いた、文字通り勧善懲悪の痛快娯楽活劇だ。

アクションでありながら、心震える切ない人間ドラマとして、感涙を煽る演出だったのかと問われれば、まったくそんなことはない。むしろ徹底してコミカルかつ愉快な作品だった。
だのに、なぜ、自分は泣いたのか。いかにも「さぁ泣け」とばかりに音楽が盛り上がり、若者たちが清らかな涙を見せるような映画では、まったく、ぴくりとも泣けないというのに。

作り手に泣かせる意図が一切なく、現に映画館にいた周りの人たちも笑ってこそいたが、目を潤ませている人は一人もいなかった。そんな映画「ベテラン」を見ながら流した涙は、いわゆる感動の涙、とは違う。
自分でも驚きながら辿り着いた結論は、「楽しすぎたから、泣いた!」、だった。
映画があまりにも面白く、痛快で、気持ちよかったがために、涙が溢れて止まらなかったのだ。

劇場が明るくなり、ふと横を見ると、なんと妻も号泣していた。
「あまりにも昂ぶりすぎたから」という理由で。
「シビレ泣き」と、その後命名していたが、なるほどそうなのかもしれない。
「リュ・スンワン、ありがとう!」
涙を流しつつ、その日、私たちは映画館を後にした。

年を取ると、涙もろくなることは事実だ。
そして、涙というのは、実に奥深いものなのだった。

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