リレーコラムについて

雨天曇天、時々晴天。

山本高史

今日の気分まかせで書きます。書くこと書いたら急に終わります。しかもそんなに面白くないですよ。

ここひと月怒らない。もちろん怒ってはいる。しかしキレたり声を荒げてはいない。
梅田の寿司屋(客単価5000円程度の大衆店)で食ってて、締めに蛤のお吸い物を頼んだら、この店に来る前は駐禁の取り締まりやってましたみたいなオッサンが、手鍋からお椀に蛤を移す際その蛤がペロンととれて床に落ちて、あ〜あ作り直しかと思ったその刹那、オッサンそれを拾って素早く水で洗いお椀に放り込んだ時にも怒らなかった。内緒にしといてやるから、ツレのあさりの赤出しもすぐに捨てて伝票から消せと低い声で言っただけだ。
大学の授業アンケートで「もっと面白い講義をしてください。私はテキストの朗読会に来たのではない」と書かれても、ほんとに不思議と不感症だ。この匿名くんの人生に不運を、とだけ思ったけど。
ぼくがクライアント側で受ける仕事の中で、ある広告代理店のオイオイ正気か?というようないい加減な作業があって、その打ち合わせのあとそのいい加減な営業と飯に行って、「最近あまり怒らないんだよね」とぼくが言ったら、その男「そうですよねー、さっきびっくりしましたヨー」とほんとに驚いていたのを目の当たりにしても、怒らなかった。ちょっとだけ怒らないキャンペーンを中止してコヤツ殴ろうかなと一瞬思ったが、怒る気にならなかったんだよねー。
成りゆきでキャンペーンとは書いたが、そうしようと思ってそうしているわけではない。きっかけはある。昨年末あるクライアントとの出張中に、クライアントのエラい人が部下にキレた。平素は知る限り温厚な人で、彼を怒らせた理由も無理からぬことだったが、そのご立腹のせいで行程そのものが台無しになった。ぼくは通例怒るか怒られるかしかないので、怒る時は怒るし怒られたら(まず自分が悪いので)謝るしで、怒っている人と怒られている人を端から見ることはなかった。いざそうやって眺めてみると、怒るってーのは効率の悪い作業だな。怒ったら、まずは脱線する。脱線したのをもういちど予定の流れに乗せ直さなければならない。怒られた側の気分のメンテナンスも重要だ。なぜ怒ったかを明確にし、それについての改善策を勧告し、怒った相手に対する期待や愛情もちらつかせ、念のためにその件がよそに漏れて炎上したりしないように配慮をしなければならない。こういう時ってなぜか怒らせた側はこっちの気分をなぐさめたりしてくれはしないので、自分で損ねた気分も自分で修復する。あーめんどくさい。そんな労苦をあのエセ寿司屋のためにする?ってことだ。と考えてたら、まったく気持ちが荒立たなくなったんだよねー。
そんな話を友人にそこはかとなくしていたら、「なんかさみしいねー」とか言う。オマエは怒ってなんぼ、みたいなことを言われる。愛がなくなった、とかのたまわれる。アーソーカ、オレはこのあとの人生、愛なしに生きていくのだ、愛の亡霊だ、とか思った。

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