リレーコラムについて

好きなもの

秋田勇人

あるような、ないようなものが好きだ。

例えば「マクガフィン」。
映画やお芝居に出てくるモチーフのことで、
「正体は明かされないが、物語を進めるキーになる」ような
モチーフのことを指す。
スパイものでいう「手に入れなければならない機密書類」などが
ベタなマクガフィンだが、
舞台『ゴドーを待ちながら』のゴドーや
世にも奇妙な物語の『ズンドコベロンチョ』といった
マクガフィンを真ん中に据えた物語もある。
広告だと「アペオス」のCMが有名だ。
意味がないようで、重要な意味を持つ、
その不思議なあり方に、惹かれる。

他には「シャノンの最終機械」。
これはナンセンスマシンの走りのようなもの。
箱についているスイッチをオンにすると
箱の中から手が出てきて、スイッチをオフにする。
つまりは自殺する機械、みたいなことなのだが、
コンピューターの父として知られるシャノンが
とんでもなく無駄で意味深な、
この機械を発明したところが面白い。

他にも「トマソン」や「サンプル食品」など
好きなモチーフは沢山ある。
ただ、こういった「意味があるような、ないようなもの」の中で、
僕が一番好きなのが広告かもしれない。
広告業界は時に虚業などと揶揄されるが、
まさに広告は虚ろに、一瞬の出来事として世に出てゆく。
必要なような、無くてもいいような。
ホンモノのような、偽物のような。
そのなんとも曖昧な立ち位置が好きなのだ。

人の心に響く表現を作れば、
「必要のないもの」が少しだけ「あってよかったもの」に変えられる。
「偽物」にかすかでも、「ホンモノ」らしさが宿る。
そこに一番やりがいを感じるのだ。

多分これからも、意味と無意味の間で、
ジタバタする日々が続くだろう。
でも、多分それが天職なのだと思う。

さて、これで僕のコラムは終わり。
来週からは同じ局の先輩であり、
新人賞同期の野崎賢一さんにバトンを渡します。
正確に言うと、
廊下ですれ違い様に強引にお願いしたのですが、
野崎さん大丈夫でしょうか?
いや、大丈夫ですよね!

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