リレーコラムについて

安参と多平の肉

加藤充彦

仕事や用事があって関西に行くと、
やはり牛肉が食べたくなります。

何かの番組で、
カレーのデフォルトは
ポークかビーフか、
というのを調査していたのを見たことがあります。

確かその境目は、三重の途中にあって、
そこから東は、カレーと言えばポークカレー、
ビーフはビーフカレーと言い、
そこから西はカレーと言えばビーフでしょ、
ポークなんてありえへん、
ということになっていました。

言葉使いもちょうど三重の大きな川を挟んで、
東は名古屋風、西はいわゆる関西言葉なので、
やはりそうなのかも、と思わせる説得力がありました。

以前に担当していた仕事で、
とても危険な現場で撮影するレギュラー仕事がありました。
それは鈴鹿サーキットで至近で撮影するというものだったのですが、
毎回コースに入る前に、事故に巻き込まれて死んでも訴えません、
という書類にサインさせられるんです。

そんなキツい仕事を終えた後は、
ちょっと旨い肉を食べてから帰りたいもの。
名古屋から東京とは反対方向の新幹線に乗って京都へ行き、
向かうのは祇園のど真ん中にある肉割烹の安参です。

カウンターに座ると、
次々と肉刺しが出され、黙ってそれを食べるスタイル。
滑らかな舌触りのタン、
弾けるような歯触りが魅力のハツ、
透明感に溢れるミノの湯引きは梅肉で、
そして当時はまだ禁止されていなかったレバーは
角がピンと立っている極めて新鮮なもの。
どれも信頼できるルートでしか手に入らないであろう、
極上品です。

その後は焼きから煮込みに進んで、
だいたい煮込みの途中でもう限界となります。

先日、用事があって久しぶりに行ったら、
ヒゲのお父さんは3年前に遠いところに往かれてしまっていた。
お兄さんお姉さんたちと、しばしお父さんとレバーを懐かしみました。

大阪に用事があるときの、
僕のお気に入りは難波の多平です。
西川きよしさんが若い頃から通い詰めているらしいのですが、
その雰囲気はまさに、じゃりん子チエのセットのよう。
でも出される肉は、やはり東京では特殊なお店にしかないような極上品。
上品なタレと繊細かつ大胆なカットが、
その旨さを引き立てます。
あと多平は、もやしナムルがほんとうに美味しい。
もやしはおかわりしようとすると、
お母さんがちょっといやな顔をするんですけどね。

安参でも多平でも
極上と書いている理由は、サシ(霜降り)のことではありません。
36ヶ月以上育てられた、成牛の肉であること。
脂の融点が低く、その赤身には成牛ならではの
コクと滑らかさがあります。
その上で雌牛なら、もう一段の滑らかさに辿り着けます。

お店の雰囲気はじゃりん子チエでも、
出される肉は、東京で言えば、ほんとうに限られたお店でしか
出会えないような極上品。

言い換えれば、こういう肉は
東京にはなかなか回ってこないのかも知れません。
昭和の時代、東京で高級な牛肉料理と言えば、
すき焼きしゃぶしゃぶが頂点でした。
煮る系の料理では、なによりサシの量が大切で、
赤身の肉質の差が、いくぶん分かりにくいんです。

もうひとつ、関西の牛肉文化の厚さを思うのは
ひとり焼肉への理解です。
東京でひとり焼肉をするには、相当な勇気が必要ですが、
例えば多平のようなお店には、
カウンターがちゃんとあって、
ひとりでスポーツ新聞片手にさっと食べてさっと帰っていくスタイルが、
東京での焼鳥店と同じように用意されている。
これはほんとうに羨ましい。

関西で極上の牛肉を食べていると
文化とは、その土地の人たちが無意識に作り出すものだ、
という気がしてきます。

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