リレーコラムについて

悲しい話。

田中徹

僕の家族は今から40年以上前に米国に引っ越しました。父の話だと、日本人に貸す家はないと言われたり、なにかと大変だったらしい。やがて母と結婚し、僕ら兄弟が生まれ、念願のクルマも手に入れ、暮らしも少し楽になったころ、東海岸に再度引っ越し。僕ら兄弟も小学校にいくことに。で入学した小学校で唯一というか、たった二人のアジア人。こどもは正直だから、珍しさで、いじめられたり、無視されたり。何せその時代、父がテニスクラブやゴルフクラブに入会出来ないといって怒っていたぐらいですから。でも中にはアメリカ民主主義な小学生もいて、日本人をいじめるべきではない、なんて言って教室で僕をはさんで喧嘩がはじまったり。味方になってくれるのはうれしいんだけれども、なんかつらかった。で、なんとか馴染み始めたある日、話したこともないクラスの女の子が、僕の家に遊びにいってもいいか?と聞いてきました。舞い上がりましたよ。なんてたってフランス系アメリカ人のシャンタール。当日は母に言って狭い家をきれいに掃除してもらったり、小学生なりに興奮してた。ま、結局家に来ておやつを食べて、ガラスケースに入った日本人形をみせたり、たわいもない放課後がすぎました。それからは登校しても彼女に挨拶するだけでも何となくホンワカしていたわけです。でまたクラスで喧嘩。その頃にはしっかり自分で戦うすべもあり、相手が一寸不利になった。そしたら、こういわれました。「シャンタールは先生にいわれてオマエの家に行ったんだぞ、知らなかっただろ!」いやぁ、知りませんでした。「知ってた!」と思わず答えたけど、もうだめ。
がっくり来た。先生の好意、シャンタールの義務感とか理解はしたけど、がっくり来た。なんていうか怒る気にもなれない。
もし今、僕が役者で、泣かなきゃならない場面があったら、きっとこの思い出を使うのではないかな、と思います。本当に今書いているだけで、悲しくなってしまった。

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