リレーコラムについて

GHOST WESTIN IN NASHVILLE

岩井俊介

前回からの続き。

WICHITAは、シアトルほどではないが、
アメリカ航空産業の都。
東と西、北と南の丁度真ん中にある
「合衆国のへそ」だから。

折角なので、
BOEINGのWICHITA工場に立ち寄る。
もちろん製造ラインなんかは見れないが、
屋外に置かれた
B52、AWACS、KC135ストラトタンカーが見える。

敷地の隅に、古ぼけた茶色い建物を発見。
航空機オタクと、建築オタクの二つの勘が反応する。
近づいてみる。
廃墟のようだが、見事なアメリカ式デコ。
凝ったファザード。どう見ても20〜30年代のもの。
雪道をさらに近づく。
入り口にKANSAS AVIATION MUSEUMの文字。
隠れた秘宝の発見。
これだから、旅はやめられない。

ボランティアのおばちゃんが自慢するに、
ハンフリーボガード氏もご利用になった
戦前の旧ターミナルビルを航空博物館に改造したもの。
博物館といっても展示はお世辞にも
ちゃんとしているとは言えず、物置のよう。
しかし、愛すべき小品。
戦前は今のオヘア、DTWの様だったのだろう。
栄華の残り香が、階段や壁に。

ミズーリに入る。
恐らく、ほとんどの日本人、
というか外国人にとって
なんのイメージもない州。
まあ、見るものも、ない。
80年代以降がすっぽり抜け落ちたような街、
ポプラブラフのRAMADAに泊まる。

翌日。
まだ雪。
イリノイをかすめる。
CHICAGOのある州が、なんでこんな南にあるのだ?
まるで、埼玉の隣に、秋田県がある感じ。
南北に馬鹿でかい。

ケンタッキーを突っ切り、
テネシーへ。
さて、NASHVILLE。
久々の大都会。
今夜はいい宿に泊まろうと、
WESTINのリザベーションに電話。

Do you have Westin in Nashville, TN?
と訊く。

Yes,sir!
89 dollar a night, sir!
と電話口の彼。
ご丁寧に住所までしっかり教えてくれる。
これで今夜はWestinご自慢のHEAVENLY BEDだ。
現在考え得る、最良のホテルベッド。
枕もリネンも完璧。

HEAVENLY BEDのことを考えながら
厳寒のNASHVILLE着。
教えてくれた住所にクルマを着けると、
そこには、SHERATONの文字。
ベルボーイ兄ちゃんに訊く。
Where is Westin hotel?
兄ちゃん曰く。
I think there’s no Westin here in Nashville.

一瞬固まる。
だって、予約を取ったぞ。しっかり値段まで言って。
カードナンバーだって入っている。
兄ちゃんが、他の兄ちゃんに訊いてくれる。
「数年前まで、そこのハーミティジがwestinだったけどなあ」

半信半疑で、ハーミティジへ。
ここがまた壮麗なグランドホテル。
無人のロビーに、巨大なツリー。
多少寂れた感じが、いい味。
ウォルドルフ・アストリアを少々田舎風にした、という所か。
愛想のいいフロント氏にいきさつを話す。
「ははあ。そうですか。
確かに私たちはwestinでしたが、今はもう関係ありません。
そちらは幾らって言いました?」
「89ドル」
「では、そのレートで結構です。
ふつうはもっとするんですけど」
すぐさまチェックイン。

少々暗くてくたびれてはいるが、
上層階の広大なスイート。
これが89ドルなら最高だ。

「幽霊WESTIN」の予約をキャンセルするため、
再び、リザベーションに電話。
「WESTINとSHERATON間違えたろ?」
「その様ですね」
数年前から、2ブランドは
おなじSTARWOODグループになっていた。

街をぶらつく。
刺すような寒さ。
暖をとるため、カントリーのクラブへ。
カントリーは、肌に合わない。
ここがMEMPHISなら、
一晩中でも居られるのだが。
やっぱり、テネシーは、BEALE STREETに限る。

早々に引き上げる。

次回へ続く。

I fly, therefore I am.
岩井俊介

NO
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