リレーコラムについて

砂と青の旅 <砂漠の薔薇篇>

岩井俊介

昨日からのつづき。

朝。
エルジェムという街に立ち寄り、
壮麗なコロッセウムを観る。
ローマのそれより一回り以上小さいが、
あそこまで観光地化されてなく、見物客も少なく、
街のヌシのようにそびえる姿が気高い。
気に入る。

ハマメットはチュニジア風アンティーブ、またはサンレモといった風情。
町の一角で、強いジャスミンの香りに包まれる。
見ると、街路樹がみなジャスミン。
軽い雨のあと。
清清しい空気にエッセンスオイルを加えたよう。
ジャスミンの原産はアラビアで、
かつては媚薬として使われていたことを思い出す。

例のハイクラスホテルゾーンはそこから数キロ。
幕張のような新開地に巨大ホテルが20軒近く軒を連ねている。
味気はないが、ホテルは選び放題。
その中心にメディナやカルタゴの意匠をリミックスした
醜悪なアメリカ風テーマパーク。
この国で見た、唯一美しくないもの。
リミックスなぞは、
オリジナルであることに自信がない者がやるべきことだ。

その名も「カルタゴ」という比較的新しいホテルを選ぶ。
中へ入ると、4層ぶち抜きアトリウム。
ソウルにあっても、ヒューストンにあっても似合うような建築。
つまり、個性はないのだが。

ホテルの第一印象はベルボーイによってもたらされることが多い。
若く、一所懸命な「カルタゴ」のベルボーイ君。
各国のエアラインやホテルのステッカーがベタベタ貼られた
僕のリモワのスーツケースの真ん中に、
「カルタゴ」のを2枚も貼って、
「ウチのも貼っときましたよ!」とニッコリ。
これをやられると嬉しくなる。

チュニジア最終日。
朝のうちはプールサイドで5つ星ホテルを満喫。
後はチュニスの空港まで、
この国唯一のフリーウェイをぶっ飛ばすだけ。
無数の虫たちがウィンドシールドで昇天する。

全走行距離1500キロ超。
パトロールと別れを告げる。
少々感傷的になるのもつかの間、
この国のレンタカー代は距離換算。
「締めまして」と出された料金に驚愕。
しかし、旅の散財はかき捨て。

フランクフルト発の中華に乗るため、
まずアリタリアのMD80でミラノ・マルペンサへ。

ほぼすべての入国客、トランジット客が狭いホールに集められるので、
いつも大渋滞、大混乱で、僕が勝手に「ミラノの関」と呼んでいる、
トランジットエリアをなんとか通過。
今回はシェンゲン条約ターミナル(拡大前EU各国行き。国内線扱い)の
外と内にひとつずつあるGUCCIも無視して、
フランクフルト行きゲートへ急ぐ。

駐機場で待っていたのは、飛行機オタクのお楽しみ。
エンブラエル170に初搭乗。
アジアじゃまだ乗れない、最新のブラジル製小型ジェット旅客機。
アリタリアがごく最近導入したもの。
トヨタの堅実さと、ポルシェのパワー&セクシーさを兼ねた名機。
ブラジル人がうまいのはサッカーと格闘技だけじゃない。

キャビンは新車のような匂い。
そこにアリタリア自慢のうまいコーヒーの香りが漂い始める。
眼下に西日を浴びる、入り組んだコモ湖の岸。
やがて漆黒のアルプス。

黒々と蛇行するマイン河を右手に眺め、
スケジュールより少し早めに、
フランクフルト・アム・マイン空港にアプローチ。
皆様、アリタリアだって時刻表より早く飛ぶことができるのですよ。

ランディング。
ゲートへタキシングする間、
キャビンに静かに音楽がかかり始める。
チャントのようなアラブ風ヴォーカル。
マグレブ出身のシンガーとスティングが競演した一曲「デザートローズ」。

この曲には思い出がある。
ある飲料メーカーのジャスミンティーのキャンペーン。
ジャスミンのルーツであるアラビアやマグレブをテーマにした企画を考え、
同い年のプロデューサーと「絶対使おう」と決めていたのがこの曲だった。
しかし制作直前でUAとAAのボーイングがWTCに突っ込み、
モロッコまたはチュニジアロケは、
アラブの企画自体と共に、消えて無くなった。

旅は時に、このような偶然をくれるもの。

アリタリアを降機する時のキメ言葉を、
キャビンアテンダントにつぶやく。
「グラーッツェ。アリベデルチ」。
今夜は早着と曲のお礼をこめて。

人気の少ない深夜のターミナル1。
早足でエアポートホテルへ。

どこからか、
あのハマメットのジャスミンの香りが
漂ってきたような気がした。

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ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました。
(マジで航空券の問い合わせをくれたあなたも!)
来週は電通の我が後輩、山上陽介君に接続します。
トランジット、お忘れなく。

I fly, therefore I am.
岩井俊介

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