リレーコラムについて

通路側は、間違っている

中治信博

児島令子さんからコラムを引き継いだ中治です。

児島さんは言わずと知れた日本を代表するコピーライターの1人ですが、
僕と同じく関西出身(というか、在住)。
かつて聞いた時の悩みは、東京で「大阪のコピーライターの児島さんです」と紹介されることだと言ってはりました。
しばらくして「女性コピーライターの児島さんです」と紹介されるようになり、
ついに「コピーライターの児島さん」と言われるようになったそうです。
すごいスピードで階段を駆け上がっていった様子がうかがえます。

児島さんで覚えているのはもう一つ、新幹線の話です。
大阪から東京に行く新幹線の中でぎりぎりまで仕事をしたいのに、隣りに誰かおじさんが座ってしまった時。
「降りろ、降りろ」と念を送ると、
なんと、みんな名古屋で降りてしまうそうです。
いや、それがほんとらしいんです。
駆け上がっていく人は違う。

僕はというと、同じように仕事がら新幹線に乗ることが多いです。
もちろん念力では隣りの人は降りません。むしろ名古屋から乗ってきます。
でも新幹線は飛行機に比べて乗り降りもカンタンだし、ほとんど不満はありません。
が、座席指定についてはひとこと言っておきたい。

新幹線の座席指定の仕組みは(駅の販売機ですることが多い)
「窓側」と「通路側」を選べるようになっています。
両方が全席いっぱいで、3人がけ席の真ん中しか開いていない場合は
「どこでもいい」という表示のみが点灯します。

どこでもいいって、そんなやつはおらんやろ。
「どこでもいい」でなく、「すみません、3人がけの居心地の悪い真ん中席しか空いてないんですけど」となぜ書けないか?
まあ、それはいいとして。

「窓側」と「通路側」、これ、どっちがいい席だと思いますか?
ふつうに言えば、それぞれ好みで決めればいいことです。
でも!
新幹線には暗黙の、あるルールがあるのです。
いや、あるというのは語弊がある。
ある、と私がゴーマンにも思っているだけかも知れません。
しかし、これだけは、この1点だけは、どうしてもゆずることができないのです。

ふつう「窓側」と「通路側」が両方あいている時、
私は迷わず「窓側」を取ります。
それは決して窓の外のきれいな景色を眺めたいからではない。
ま、そういう人もいるかも知れないが、日々厳しい現実を生きる出張者の心はひとつ、すなわち、

「窓でも通路でもどっちでもいいから、隣りに人が座らないでほしい!」

の心です。
せわしなく仕事に追われる毎日の、移動のための2時間か3時間、
2人がけ・3人がけ席を、独占したい!
満員なら仕方がない。あきらめがつくでしょう。
しかし、
「窓側」と「通路側」両方が空いている時に、誰かが気まぐれに「通路側」を選んでしまうと、
同じ車両の中の窓側の席にいっぱい空席があるのに、
なぜか自分の隣りだけ人が座っている、という不条理が起こるのです。
他の窓側人(と仮に呼ぶ)は、みんな2人席、3人席を独占し、わが世の春を謳歌している(古い)。
なのに自分だけは、暑い日の動物園で日陰に片寄っているペンギンみたいになっているのです。
一度などは、車両に2人しか乗っていないのに僕の隣りに知らない人が座ってしまったのです。さすがにその人も怒ってました。

もしコピーライターに関心のあるJR関係者の中の、座席指定関係者の方が読んでいらしたら、ご検討願いたい。
窓側、通路側、の区分ではなく、
「誤って隣りに人が座らない」ための選択肢を作るべきではないでしょうか。

1:窓側
2:窓側がいっぱいなので、やむをえず通路側
3:窓側も通路側もいっぱいなので、やむをえず3人がけの真ん中

この1、2、3の順に自動的に指定を入れていく。
こんなカンタンな工夫で、ガラガラの車内で知らない者どうしが隣り合わせという事故は避けられるのです。

ついでに言うと、このシステムが将来作動するまでは皆さんにお願いしたい。
どうか、どんなに通路側が空いていても、どんなにその方が車内販売が買いやすいと思っても、
窓側が空いていたら、まずそちらから選ぶ。
ささやかなルールで、出張に追われる人々につかの間の安らぎが訪れることになるでしょう。

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