リレーコラムについて

「哀愁の宇宙漂流」

中治信博

公開中の映画「ゼログラビティー」は、傑作と評判だ。
だがその日本語タイトルには違和感を感じるという知り合いが多い。

原題はただの「Gravity」(重力)で、正反対なのだ。
宇宙空間で遭難する話なのに「重力」はおかしいだろうと思うと、
最後まで見れば「なるほど」と感動するようになっている。
ラストシーンで「GRAVITY」の文字が出て、思わず拍手したくなる。
いわば監督が確信犯でつけたタイトルだ。

一方で、日本語タイトルが「グラビティー」だと何となく弱いな、
と感じた配給会社の人の気持ちはわからなくはない。
カタカナで書くと「ゼログラビティー」の方が断然強い。

かつては原題を忠実に日本語に訳した。
代表は「風と共に去りぬ」だろう。
原題は「Gone with the wind」、そのままだ。
でもそのままなのに素晴らしい。
映画界の「トイレその後に」だと言ってもいい。

「ボニーとクライド」を「俺たちに明日はない」
「ブッチ・キャシディーとサンダース・キッド」を「明日に向かって撃て」
と訳したあたりから、かなり自由度は高まる。
原題を完全無視。
「上を向いて歩こう」がアメリカで「スキヤキ」と訳されたのを思わせる。

やがて、こういうのは意味わからなくてもカタカナがいいんだよ、
と言い出す人が現れた。
例えば「ゴッドファーザー」
戦前ならおそらく「名付け親」だった。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」長いがな。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」は、よほど「カリブの海賊」と言いたくなかったのだろう。

やたら雰囲気の装飾語をつけるのもあった。
「哀愁の」とか「涙の」「夜霧の」。
歌のタイトルは「悲しき天使」「悲しき雨音」「悲しき鉄道員」
何でも悲しい時代があった。

しかし、
「グラビティー」と「ゼログラビティー」のように、
原題と正反対の日本語タイトルはなかったような気がする。

「ローマの平日」
「ミッション・ポシブル」
という映画があったら、どうなるか。
ま、それはそれで面白いか。

タイトルはどこまで変えていいのだろう。

なお、
この文章のタイトルは
「ゼログラビティー」を前述の、ストーリー説明に雰囲気のある装飾語をつける型に変換してみたもの。
いかにもお客が入りそうにない。

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