リレーコラムについて

モノをつくる仕事と母であること

井田万樹子

毎日5時半に帰る人間に、誰が
自分の会社の広告を作ってほしいなどと思うだろーか?

結局、最後は、信頼感なのだよなぁ、
と思います。

クライアントとの関係だけでなく、スタッフも。

この人と一緒にやっていけるのか
この人に、任せていいのか
ギリギリのところで最後まで頑張ってくれるのか

そのときに、「あ、私、子どもがいるんで帰ります」…なんていう私。

みんな「いいよ、いいよ」と言ってくれます。
「大変だねぇ」と言ってくれます。
でもね、でもねぇ
信頼感があってこそ、自由な表現があるわけで••••

モノをつくる、という行為は、身を削る行為に近いと思います。
自分の中にずーんと入っていかないと、言葉や世界を紡ぎ出せない。

だから「子育てとの両立、大変ですね」と言われるたびに、
いやぁ…なんて、ごまかしてしまいます。

誰のせいにもできない
自分自身の問題なのだな、結局は。

子育てをしながらバリバリ働いている女の人、
広告の世界でも増えてきてますよね。
「楽しいですよ〜子育ても仕事も」なんて、スマートにおっしゃる方もいて。
本当、どうやってらっしゃるんだろう?

だって、正反対なんです。モノ作りと母親業とは。
全く反対のベクトルにあるのです。

朝も夜もモヤモヤと考え続けたい私。
朝も夜も一日中、見ていてほしい娘。

「ママ、見て!見て!」「はーい」「ママ!見てる?」
「うん、うん、見てるよ」「見てる?ママ、ママ、ママ、ママー!」
「ママ!!…見てないっ!」
一瞬でも、よそ見をすると怒られてしまいます。

私は、考えはじめたらごはんも食べない(かわりにお菓子!)、
デスクまわりがどんどん散らかって行くタイプ。世界を遮断したいのです。

一方で母親とは、子どもを深く見つめ、耳をすまし、
子どもの目線に立ち、身体いっぱいに受けとめてあげてあげる…
そういう存在でなくては、い、いけないのだろうな…。

さらに、モノを作るということは、
何らかの「狂気」を含んでいると私は思います。

広告の仕事は作家ではないので、「狂気」というほどではないかもしれませんが、
そんな私でも、ふと気づくとブツブツ変な言葉をつぶやいていたり、
常識とかけ離れた考えをしてニヤけているときがあります。
想像力の影には、何らかの「狂気」が隠されていると思うのです。

反対に、母親は狂気などあってはならぬのです。

子どもと向き合うとき、母親は聖職者のように
清純な言葉で人間の美しい部分だけを伝えようとします。

「今日、◯◯ちゃんが、こんなこと言ってきてん」
「そっかぁ、そんなこと言われたんや。こっちゃん(娘)は、どう思ったん?」
「嫌やった」
「そうかぁ、嫌やったんかぁ」
「うん」
「じゃあ、こっちゃんは、お友達が嫌やなぁと思うようなことを
 しないようにしたらいいやん」
「うん」
「こんなことされたら嫌やなぁって気づけて、今日は、よかったやん、よかったな〜」
「うん、よかった」
「よかった、よかった」
母子の会話とは、こんなかんじなのです。
ほええええ。

さらにいうと、広告という仕事、資本主義経済そのものが
子育てや、人間らしく生きることと逆ではないのかとさえ思ってしまうのですが、
あーダメだ、今までずっと、ギャグ路線のリレーコラムだったのに。
すべての職業は、矛盾を含んでいるのです。

娘が小さかった頃、「鬼のような形相でママチャリこいでいる井田さんを目撃した」
と、よく言われました。電柱に衝突したり、子どもを乗せたまま車にひかれそうになった事もあります。
いつも時間に追われていました。東京出張して帰って来て企画をして、朝ごはんを作って食べさせて…がんばって、がんばって…ある日、

ぷちーーーん、と、切れてしまいました。

結局は、いろんなものを捨てて、大切なもの1つか2つだけあればいい。

他人から褒められること、肩書きを立派にすること、いろんな仕事を引き受けて、お金を儲けて、
そのお金でいろんなものを買うこと、お酒を飲んでいろんな人とお喋りすること、

そんなことは、自分にとって大切なことではない。

これに気づくのに、ずいぶん時間がかかりました。

逆に、自分自身が納得できないまま企画を出してしまうこと。それが世の中に出てしまうこと。娘が成長して、いろんな悲しみに直面したとき、悩んだとき、自分の心のうちを親に話してくれなくなること、そういう関係になってしまうこと。
それが、なにより、つらいなぁ。

自分をごまかさずにできる仕事を
自分が納得できる完成度まで仕上げられるものを
細く細くでも続けていけたらなぁと思っています。付き合い悪くてごめんなさい。

小さな世界で、派手な仕事をしているわけではありません。
それでも私はとても誇りを持って、今日を過ごしています!

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