リレーコラムについて

日本でたったひとりのコピーライター

河西智彦

はじめまして。

呉さんからバトンを引き継いだ、
博報堂関西支社の河西智彦です。

バトンを渡すはずの人々に裏切られ、
心身ともに傷だらけになっていた呉さんから電話が
来たのが土曜日。
そこからきちんと3日間寝かせて、さて、書きはじめます。

初日なので、僕は日本で唯一の○○コピーライター
じゃないだろうか、という話をします。

僕は東京生まれ&育ちで、
高校は毎年東大に100人弱を送り込む国立の進学校でした。

で、国立だからなのか、うちの高校では1学年に2〜3人、
タイからの国費留学生を受け入れていました。
彼らは3年間勉強し、そのまま日本の大学を受験したりします。
「いきなり日本の高校にかぁ。大変だなぁタイだけに」と
入学式で思ったのは同じクラスに留学生のひとり、
タイ人の女の子がいたからです。

彼女はとてもかわいらしい子で、(高校3年間ずっと同じクラス
だったのでわかったのですが)とにかく優しく、
そして聡明でした。

ただ、日本語はかな〜りのカタコト。

そりゃそうでしょう。
タイで多少は勉強してきたようですが、
日本語の難しさは世界でもトップクラス。
そんな状態でいきなり現地の授業。しかもかなりの進学校。

でも、彼女は頑張り屋でした。
積極的に周囲に話しかけ、微笑みかけ、
あっという間に友達をつくりました。
後で知ったのですが、国費留学生というのは相当のエリートしか選ばれないようでして。地頭がいいんでしょうね。

とはいえ、やっぱり日本語はまだまだ拙い。
授業とかちゃんと理解できてるのかなぁ?
とちょっと気にかけたりしていました。

さて、一瞬だけ僕の話をすると、
僕は典型的な数学脳で、昔から数学が得意で国語が苦手でした。
「主人公の気持ちを考えなさい」のような問題も、
主人公の気持ちをナナメに見すぎていつも不正解。
おまけに暗記が嫌いで、
たぶん僕の脳の容量は3MBぐらいです。

そんな中、高校生活最初のテスト、
1学期の中間テストがやってきました。

僕は見事、現代文35点、古文24点でした。

うちの高校は進学校ですが国立なので、
順位を張り出したりはしません。
ただ、先生によっては得点分布図を配布したりもします。
そして僕を追いつめたのは、その得点分布表でした。

現代文30点台・・・2人
古文20点台・・・2人
どちらもクラス最下位だったのです。

そう、僕は、日本語がカタコトのタイ人留学生と
日本語のテストで激しい最下位争いをしていたのでした。

こうなると、焦点はただひとつ。
いったい彼女は何点なんだ・・・。
ビリは俺か。それとも彼女か。

なんとか彼女の点数を見てやろうと思うのですが、
彼女はすでにテストを机の中にしまっていました。
気持ちはわかります。日本語のテストなんてできるわけがない。
そもそも来日2ヶ月の彼女がいるのに無頓着に得点分布表を
配るという、国語の先生がとった鬼のような仕打ちも許せない。

いつのまにか僕は彼女と戦友になったような気がしていました。

その日の昼休み。
クラスの男たちが集まり、話題は古文と現代文のテストの話に。
そこで僕は、とんでもない一言を聞くのです。

それは、クラスメイトのAくんが漏らした
「俺さ、現代文と古文、タイ人留学生の子と
最下位争いしたんだけど笑」
というコメント。

最下位争い・・・
現代文と古文・・・

・・・聡明なるみなさまなら、すでにお気づきでしょう。

そのとおり。
現代文と古文、得点分布最下位の2人とは、
僕とAくんだったのです。僕とAくんは、どちらも勝手に、
タイ人留学生が自分と同じ最下位争いの
もうひとりだと思い込んでいたのでした。

ちなみに点数を比べると、古文も現代文も、僕が最下位でした。
ただ、そんな小さなことはもはや関係ありません。

15年間話してきた言語のテストで、
来日2ヶ月の留学生に負ける。

僕とAくんの心には、まだ日本語が名前をつけられていない
微妙な負の感情が生みつけられたのでした。

ちなみに、高校の先生をしていたうちの母親は
そのビッグニュースを息子から聞き、さめざめと泣きました。

TCC新人賞の授賞式に呼んで、おいしい寿司を食べさせて
あげたのに、会場でもあの時のことを言われました。
将来、子どもにも話してあげようと思います。

ということで、僕は日本で唯一、(来日2ヶ月で日本語が
カタコトの)タイ人留学生に日本語のテストで負けた
コピーライターです。

あれ?目から塩水がでてきたので、ここら辺でやめときます。
がんばって生きていこうと思います。

なお、
僕も留学生に日本語のテスト負けたよ。
という方がいらっしゃいましたら
tomohikokawa@gmail.com
までご連絡ください。
5人集まったらオフ会を開こうと思います。

最後に。
このコラムにでてくるタイ人の女の子とはずっと仲がよく、
大学も同じだったので都合7年間一緒でした。
決して留学生差別などではありませんので、ご容赦くださいね。

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