リレーコラムについて

分け入っても分け入っても、青い私。

岩崎亜矢

このコラムの左側に、私がこれまでに
書いたコラムのタイトルが並んでいます。
今回が二回目になりますが、
2010〜2014のものは、2007年に書かれたもの。
まだパラドックスで働いていた頃でした。
だいぶ時間は経っていますが、
あの頃の自分と今の自分、はっきりいって、
何も変わっていないように感じます
(あのときも、こうさいさんの漢字の
変換に悩んでいたんだな)。

私の周りにいる大人たちは、
なんだかとてもフリーダムです。
そして、「60をすぎたら仕事がますます楽しくなった」
と口を揃えて言っている。

私はと言えば、仕事に慣れてはきた。
だけど、焦って、いっぱいいっぱいになって、
諦めて、腹を立てて、の繰り返しで、
とても楽しめていると言える状態ではありません。
何年もコピーライターをやっているけれど、
「コピー」のコツなんて一個も掴めていないのかもな…
なんて思って心をざわざわさせてばかり。

ドラえもんで、能力はそのままで、
小さい頃の体に戻れるという道具が出てくるお話がありました。
「人生やり直し機」というその道具で
頭の中身はそのままで4歳の頃に戻ったのび太くんは、
自分の名前を漢字で書いて周囲を驚かせたり、
ジャイアンとスネ夫を簡単に倒して、二人に恐れられたり。

神童とちやほやされて、いい気分になるのび太くん。
だけどこのままでいるとやばいことになるぞ、と
ドラえもんが忠告しにやってきます。
しかし、「バカ言うなよ、こんな気分のいいことないんだから」と
取り合わないのび太くん。
そこで、未来ののび太くんをタイムテレビで見てみると…。

それまで、勉強をしてなかったものだから
どう勉強していいのかちんぷんかんぷんで
今以上に落ちこぼれになっているのび太くんが
そこには映し出されていて、
あわてて元の世界に戻って勉強をがんばるというお話でした。

コピーを何度も何度も書いては、
もうどうにもならないと詰まってしまったときに、
何となくこの話を思い出すんです。
私もこののび太くんと同じように
コピーの書き方などよくわからないまま、
見よう見まねでなんとかここまでやってきたけれど、
だからこうやって詰まっちゃうんじゃないのかなと。

コピーライターはご存知のように資格のない仕事です。
「私はコピーライターです」と言えば、
もうその人は正真正銘、確かにコピーライターなのです。
でも資格のない仕事の方が、
その後は大変ではないか、とも思います。
難しい試験を突破したわけでもないので、
拠り所となるのは、自分の勘一つ。
けれど、誰でもなれると言っても、
誰もがコピーの勘を持っているわけではない。
血のにじむような努力で闘ったとしても、
それが、必ずしも良い結果につながるわけではないのです。

たいていそんなことを考えるのは、夜中の会社にて。
明日の自分に期待しようという行為を
何日か繰り返してきて、
いよいよ後がなくなった日の夜中のデスクの前。
焦りと歯痒さでいっぱいの自分。

でも、何を甘えているんだと、もう一人の自分は思うのです。
世の中にはほかにも資格のない仕事は山ほどあるし、
たとえ資格があったとしても
やっぱりそれはそれで壁にぶち当たって、
みんながみんな、自分のフィールドでもがいているのだから。
自分の仕事だけが特別なんて思いを抱くことが、
そもそも間違っているんだぞ。
足りないと思うなら、必死にやるしかないじゃない、と。

結局、「仕事が楽しい」と言い切れるかどうかは
経験によってくるのかなあと思う今日この頃
(この、言い切れるというのがポイントだと思います)。
それは決して、長くやってれば良いコピーを
すらすら書けるようになるということではなく、
長く仕事をすればするほど、
自分の置かれた状況を笑い飛ばせる強さやおおらかを
身につけることができるのではないのかと…。

うちの会社の安藤さんや葛西さんだったり、
自分の父親なんかを見ていると、
どうもそんな気がしてくるのです
(まあ、団塊世代のバイタリティは
真似できないすごさはありますが…)。

私も結構いい年になったとは思うけど、
いやー、60才まではまだまだかなり時間があります。
お話の中で現実の世界に戻ってきたのび太くんは、
「頭が悪くても、頭の良くなる機械を発明するぞ」と必死で勉強して、
ドラえもんを呆れさせていましたが、
私ものび太くんくらいの図々しさ加減で、
「60才と言わず、なんとか40才くらいまでには、
あ〜仕事が楽しくてしょうがないなってなるぞ」
という、かなり楽観的な意気込みで
明日からがんばってみようかなと思います。

いつかは、彼らのような
強さとおおらかさを手に入れたいなあ。
手に入れられるかな。
まあまたきっと夜中に、
あのへんな壁にぶつかりまくるんだろうけど。

一週間、おつき合いいただきありがとうございました
(途中、サボってしまってごめんなさい)。
次のコラムのバトンは、
桜の時期だからというわけではありませんが、
佐倉康彦さんに引き継ぎます。
「愛だろ、愛っ。」という佐倉さんのコピーは、
商品のコピーではあるけれど、
私はいつも、「ああ、佐倉さんそのものだなあ」と感じます。
愛に満ちあふれたジェントルマン、
佐倉さんのコラムがとても楽しみです。

とうとう東京でも、平年より五日遅い
開花宣言が発表されました。
それではみなさん、よい桜を!

*最後の「今日の一曲」は、二曲あります。
「Working Hard/Jim Murple Memorial」からの、
「Keep Your Dreams/Primal Scream」
という流れで。
そんなかんじで、生きていきたい。

NO
年月日
名前
5775 2024.10.10 飯田麻友 令和の写経
5774 2024.10.09 飯田麻友 最後の晩餐
5773 2024.10.08 飯田麻友 「簡単じゃないから、宿題にさせて」
5772 2024.10.04 高崎卓馬 名前のない感情
5771 2024.10.03 高崎卓馬 母のひとりごと
  • 年  月から   年  月まで