リレーコラムについて

喫煙室のこと

古居利康

 大学時代に仲のよかった友だちが6人おり、
そのうち故郷に帰ったのが2人いて、そのどちらかがたまに
出張などで上京すると、しぜんと在京の4人が集まって歓迎し、
夜っぴて痛飲することになります。
 あるとき、かれらと飲んでいて気がつきました。
煙草を吸っているのは、僕だけだったのです。

「なんだなんだおまえらいつのまにやめたんだ」
「いいとししていつまでそんなものすってる・・ふふふ」
なにそのさ「ふふふ」は。上から目線ぽい含み笑い。
「やめるならやめるっていってくれよみずくさいぞおまえら」
「はははははっ」「いいぞぉけむりのないせかいって」「はははっ」
いっせいにやめたわけでもあるまいに、いやみな笑いを笑う。

 煙草のみはどこまでも情けないのです。
さいきんはことに、煙を吐き出せる場所が絶滅しかけてます。
娘ができて以来、家の中で吸うのはやめましたが、
去年、ベランダでも吸ってくれるな、というルールができて、
いよいよマンションの敷地内でライターを使うのも
憚られることになりました。もちろん路上ダメ。駅周辺ダメ。
会社のある港区ほとんど全域ダメ。肩身が狭いったらない。
自宅から300メートル離れた公園に灰皿を見つけてからは、
深夜でも雨の日でも台風の日でも足引きずってでも、
そこまで歩いていきます。

 街場でぐうぜん喫煙所など見つけようものなら、
もう、反射的にポケットに手を突っこんで、あたふたと煙草を
取りだして、いそいそと点火します。

 ふぅーーーーーーーーーっ 
 ふぃーーーーーーっ

 深呼吸なんだよなぁ。からだ張って深呼吸してるんだよなぁ。
・・ただのばかです。たてつづけに2本吸ったりするのは、
気休めに1ミリグラムの軽いやつにしてから、吸っても吸っても
煙が入ってこなくてものたりないからなのです。

 そんなばかものが、かつて禁煙治療薬のコピーを書いていた
と言ったら、ばかの上塗りの嗤いものでしょうか。
禁煙パッチというやつを腕にペタッと貼って、ニコチンを皮膚から
直接血管に取りこむ。まずは、煙草に火を点ける生活習慣から脱する。
そして、パッチの面積をじょじょにちいさくしていって、
体内にいれるニコチンの量を減らしていく。

 ニコチン依存はアルコール依存とおなじだそうです。
ひとによって強度が異なる。たとえば朝起きて5分以内に吸いたく
なるひとは、そうとう重度の依存症。なぜならば、寝ている間に
ゼロになったニコチンを、なるべく早くまた、身体の中に入れたい!
5分以内のひとは、それくらい依存している。だから、依存度を
きちんと調べて、適切なニコチンパッチを処方いたしましょう、
というのが基本のメッセージ。
 当時はまだオーヴァー・ザ・カウンター=薬局販売が
規制されていて、試みたいひとは病院に行って処方してもらう
しかない。だから、禁煙に本気なら病院に行きましょう、
と啓蒙する、製薬会社の広告でした。

 喫煙者にとって、ひとつだけいいこと。
会社の喫煙室に行けること。サン・アドの場合、3畳くらいの
スペースに長椅子がふたつ。喫煙吸いは、まいにち足繁く
この部屋を行ったり来たりします。ふだん話す機会の
ないひととでも喫煙室でなら話すことができます。

 あ、ひさしぶり!どもどもども。いそがしいの?
 あの仕事どうなったの? え、そんなことがあったんだ。
 例のあれとあれその後どう? いやいや、いきなりレベル7に
 あげるなよ、ですよねぇ。さかのぼって嘘つき。
 今日は雨くるのかな。小笠原暖気団ってやつがね・・。
 あっちのあれは、こっち的にはどうよ。
 こっちのこれは、今後何がどうなるのか。

 会社のリアルがわかる。ひととなかよくなれる。
思わぬ情報が横から小耳に入る。世間話がじょうずになる。
喫煙室に入れないひとは、かなりもったいない。

                     (20110722)

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