リレーコラムについて

過去

佐倉康彦

かなりキてます。また、倒れてしまいそうです。と、泣き
を入れつつ第3回目です。

診察室の床に粗相をしてしまった僕は、天を仰ぎました。
また、あの光浦似の看護婦さんに叱られる。もうパニック
です。ただ、救いだったのは、その日、朝から何も食べて
いなかったのでリノリウムの上に広がったのは胃液だけで
した。持っていたハンカチで床を拭いていると、カーテン
の向こうから光浦が登場。あの甲高い声で突っ込まれる。
思わず身を固くしている僕をよそに、彼女はとても自然に、
そして手際よく僕の粗相を処理してゆきます。その横顔は
まさにプロの顔でした。不謹慎な言い方かも知れないけれ
ど、とてもかっこよく見えました。「いいんですよやりま
すから」と光浦。「本当に済みません」と僕。「やっちゃ
いましたねー、今すぐに先生を呼んで来ますから」光浦の
声が僕の弱った心にしみてゆきます。天使です。まさに。

ほどなく先生が登場。まずは問診、そして触診。聴診器を
胸にあてられたのなんて何年ぶりだろうと思いました。脇
の下に挟んであった体温計を取り出して見ると39度をち
ょっと越えています。先生を凝視する僕。坂田トシオの顔
に山崎努みたいな声を持つアンビバレントなニュアンスの
持ち主は「うーん」と唸ったままです。「先生、点滴は?」
僕は、すがるような思いで結論を急ぎます。明日アップし
なければいけないCFの企画。真っ白な何も書かれていな
いコンテが、僕の頭の中でどんどんズームアップされてゆ
きます。性急な問い掛けに一瞬ムッとした先生は「今夜は
泊まってもらおうか、入院です」と僕に告げると光浦似の
天使に、空きベッドの確認をするように命じました。

「今夜は泊まってもらおうか」10数年前の某警察署の取
調室での刑事さんのひと言と先生のひと言が、僕の耳朶の
中でオーバーラップします。なんだかカツ丼が食べたくな
りました。光浦似の天使がナースルームに走るせわしない
小刻みなサンダルの音が虚しく響きます。それは、まるで
数日後に迫った某自動車メーカーのコンペの負けを告げる
ゴングのようでした。   (いつまで…つづく…のか)

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管理者サンへ
ごめんなさい。コラム一回目の「昏倒」を
間違ってディレイしてしまいました。

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年月日
名前
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