リレーコラムについて

無差別ネーミング

井指陽

「井指と申します。よろしくお願いします」
「え?い、さ、しさん…珍しいお名前ですね」
名刺交換の際、たいていの場合そう言われます。

「あ、静岡の一部では多い苗字なんですよ」
「私の知り合いもいますよ静岡。どの辺ですか」
会話が生まれるという点では悪くないような、この苗字ですが…

気を取り直して。井指 陽といいます。
いや、取り直せません。あの、やっぱり苗字って残酷だと思いませんか?
下の名前のほうは、親とか親戚の力がはたらいてるわけで、諦めがつきます。
でも苗字って受け容れる他にないですよね。
井指、ですよ。由来も何も、わからないっていうんですよ?

失礼しました、ちょっと落ち着いて自己紹介してみます。ええと、
わたくし高校まで静岡で、看板屋の娘として育ちました。
父は広告看板を筆で書く職人です。
住んでいた小さな町には父の書いた看板があちこちにあり、
見かけるたびに、お父さんすごい!と誇らしく思ったものです。

母は、町の図書館で古文書を解読する仕事をしていました。
専門知識も経験もゼロでしたが、やがて全てを任されるほどに熟達しました。
新しく覚えた字や読み方をいつも、楽しくて仕方ないという感じで
私や父に教えてくれました。

夕食後の時間などは、3人で難しい漢字あてクイズを出しあったり、
誰がいちばん“胸を打つ”ラブレターを考えられるか、競いあったり。
この父母こそ、私が字や言葉を好きになったきっかけであり
私が「手に職がある」ということに強く憧れを抱いたきっかけです。

…あ、どうでもいい話。すいません。
いちおう父母が読むと思うんで、サービスしてしまいました。
いや本当、私にはこんなこと書くぐらいしかできないんです。
お父さんお母さん、いつも心配ばかりかけてごめんね。

そういうわけで(どういうわけ)、コピーライターをしています。
で、話は戻るんです(しつこいです)。
この苗字、珍しいのはいいんですが
電話で名乗るのにすごく面倒なんです。大体いつもこんな感じ。

「お名前うかがってよろしいですか」
「はい。いさしと申します」「は?」(くりかえす※2〜3回)
「あ〜わかりました。で、苗字をお願いします」(ひさし、と聞こえるらしい)
「・・・」

いましばらく、
この苗字とお別れできる見込みは、ないです。

NO
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