リレーコラムについて

Rainy Blue

田中竜太

長いですね、今年の梅雨。
僕の田舎は、信州の諏訪というところなのですが、
この大雨による天竜川の氾濫と土石流で大災害が起こっています。
台風や大雪の被害が比較的少ない諏訪の盆地。
僕が知る限りでは、ここ数十年で最大の自然災害です。
被害に遭われている方の無事を祈りたいと思いますし、
心配して連絡をくれる友人や先輩をありがたく感じます。
幸い、自分の実家周辺に被害はなく、
「えらい雨=だよ」というメールが母のケータイから届いたぐらい。
=は、変換されなかった、おそらく傘マークの絵文字でしょう。
ドコモからauは絵文字はムリだって、しつこく伝えているのですが。
とにかく、両親も実家も無事のようで安心しました。

ニュースが映し出す、荒れる天竜川を見て、
小さい頃に父から言われ続けていた ある言葉を思い出しました。
父はザ昭和の頑固オヤジで、子供にくれるものといったらゲンコツぐらい。
普段は会話らしい会話もなかったのですが、
そんな父が酒を飲んで機嫌のいいときにだけ話しかけてくるセリフが、
「おい小僧。お前は天竜川をダンボールで流れてきたから、竜太だ」。
こんな、とんでもカミングアウトを、ニコリともせずに、
むしろちょっと得意気に、少年だった僕に言い放つのです。

当時、岡谷市にあった僕の生家は、家賃10000円の小さな長屋で、
まだコンクリートで囲われていない天竜川が、すぐ横を流れていました。
子供にとってそこは、なんでも手に入る川。
上流の諏訪湖から流れてくるゴミだとか犬の死体の間から、
まだ使えそうなボールやオモチャを拾い上げて遊んでいた僕にとって、
父の言葉はとてもリアルでした。
そうか。この人は、僕を拾ってしまった人だからこんなに怖いんだ、
本当のお父さんならもっとやさしいはずだもん、そう自分を納得させていました。

あれから四半世紀になります。
10歳になる頃、諏訪湖の高台に引っ越してからは忘れていた記憶を、
今回のニュース映像で思い出してしまいました。
結局親父からは、あれはウソだって一度も言われていないなあ、とも。

いま、東京で暮らす僕の家には、7年いっしょにいるネコがいます。
三軒茶屋で出会ったそいつの名は、サンチャ。
名前の付け方の法則が、親父と同じなんだということに改めて気づき、
やっぱり俺たちは実の親子なんだ、と安心するのです。
‥あれれ?っていうことは、やっぱり拾われた子なのか?!

人を不安な気持ちにさせる嫌な長雨です。早くやんでほしいものですね。

さて、雨は来週も続きそうですが僕のコラムは今日でおしまいです。
最低3回は書くことを目標にしていたのですが、
たった2回でバトンタッチです。期待してくださった皆様、すみません。
今週は火曜から始まったから‥なんて言い訳したりして。

来週のコラムは、今年ついに新人賞を獲った井口雄大君。
博報堂では時松さんと双璧を成す、メガネのイケメンコピーライターです。
その名の通り、プレゼンにも雄大に遅刻してくる男の生き様をお楽しみに!

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