リレーコラムについて

ひそかな憂鬱

中治信博

岡くんからコラムを引き継いで、さっそく初日をさぼった中治です。

電通で同期入社の岡くんに初めて会った頃の思い出は、「謎かけ」です。
入社したての僕は、広告のアイデア発想は謎かけ(笑点なんかでやってる)に似ているとなぜか思いたち、いま考えると恥ずかしいのですが、専用の用紙を作って練習していたのです。
そこへ岡くんがやってきたので、用紙を渡して「何か書け」と言いました。
彼はほんの5秒ほど考えて「女とかけて、ビートルズと解く」とサラサラ書きました。
「その心は……初めは抱きしめたい。終わりはレットイットビー」
何てカッコいいんだ!しかも速い!
もしかしたら前の晩から考えていたかも知れません。いや、そんなはずはない。
僕は脳天をガツンとどつかれたような衝撃を受け、それ以来尊敬し続けています。

さて、コラムです。
ひそかな憂鬱を漂わせ、さり気なくスマートにいってみたい。

その夜、私はブエノスアイレスのさびれたバーにいた。
遅れてきた女はものも言わずにマティーニを注文し、煙草に火をつけた。
「エルンヒョッホ・パチョスが逮捕されたのよ」
「がびーん」

すみません、無理でした。
それにしても、なぜさり気なくスマートに書きたい、と思うのでしょう。
日頃自分がやっている関西風広告表現への反動でしょうか。
関西人は実際以上に自分をよく見せようとすることに抵抗があるのですが、
しばしばそれが行き過ぎて、露悪的になり、自己否定的になる。それもまた嫌味なものです。
そんなふうに実際以上に自分を悪く見せようとすることも、一種の病気だと言えましょう。

まあ、どっちもどっちです。
本当はどちらでもない、ありのままを書きたいのです。
文章というのは不思議なもので、へたでも本当のことを書く方が力強いんですよね。何かないかな……?

そうだ、あの話があった。
というわけで第2回へつづく。

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