リレーコラムについて

現在

田中泰延

コピーライターになりたいんですが、
と相談されることが多くなった。
とりあえず、会って話を聞いてください、という人もいる。

メールをもらうだけでもお金がかかるサービスがあるのに
会ったりしたらたいへんだと考えてしまうが、
つい、話を聞いてしまったりする。

いわゆるOB訪問だったり、あるいは最近では
社内で営業職から転向希望の後輩だったりする。

すべからく希望の職業に就きたいなら、
面接というステップを経なければならない。
わたしのところへ来るのは、面接の練習という意味合いの人が多いと思う。

面接におけるいわゆる自己PRというものは、

「いままで自分が何をしてきたか人間か」

「これから何をしたい人間か」

を語ることにつきるとされている。

だが、そのように重要なな手がかりとなる「過去」と「未来」を
提示しなければならない志望者が
勝負のときだと思って面接を受けている「現在」は何をしているのか。

何もしていないんである。
しいて言えば、
「面接を受けている」だけなんである。

これが野球選手なら、試合を見に来てもらって
目の前でホームランを打ってみせたり、
起業を目指す若者なら
緻密な事業計画書を説明したりすればいい。

しかし、職歴経験者はともかく
これから広告会社に入りたい、コピーライターになりたいという
学生の人なんかは、こういうことができない。

しかも、広告というのは受注産業なので
これからこんなことがしたい、という話がしづらい。

たいていの学生がはりきって面接を受けにきても
残念ながら皆ばかにみえるのはこのためである。

わたしがいま、ばかに見えるのも
「コラムを書いている」だけだからである。
残念なことだ。
こういうときは
わたしが今日やった仕事を提示したり
これからしたいことを表明すればその疑惑は払拭されるはずだ。

ちなみに前者は、
明治のカール「うすあじ」の袋にあったはずの昆布の絵が見当たらず
昆布はどこへ行ったのか、いつからないのか、お前は気づいていたか、
と周りで仕事をしているみんなに問いつめていたら就業時間が終わったことで、
後者は、
早く帰ってイラン対日本の試合が見たいが
その前に「なか卯」の親子丼を食べるにあたって
小はいからうどんをつけるには手持ちの資金で足りるかどうかを検証したい、
ということである。

「一日中会社で机に向かっているようだが、何もしていないのではないか」
とわたしに言う者もあるが
高速回転しているコマは止まって見えることを知っていてほしい。
何もしていないようだがフル回転しているのだ。

「お前が仕事に加わると、はかどるどころか情勢が後退する」
という者もある。
速く走る車のホイールなどは逆回転しているようにさえ見えるのだ。

「敵に回すとそうでもないが、味方にまわすと恐ろしい男」
と評されたこともある。
よく意味がわからなかったが、ほめられているに違いない。

何の話をしていたのか忘れるところだ。
面接の話だった。
そうそう、ばかにみえるという話だった。

ばかにみえるからといって
過去こんなに偉いことをしましたとか
これからこんなすごいことができますとか
言ってもしょうがないと思うのだ。

人間をかたちづくっているのは
ほとんどの場合、うまくいかなかったことだ。
うまくいったこと、その時点で達成されたことは過去になってしまう。
達成されたことは片付いてしまうことなのである。
成功体験などというものは、過去そのものなのだ。

それにたいして、現在とはなんだろう。

ばかなことをしてしまった自分だけが、自分の意識をかたちづくっていく。
過去の過失に対する挫折感、罪悪感。
そしてそれをどうとらえているか、どう処理していくか、
それこそが現在で、未来へつながっていくのではないか。
それが人生そのものなのだ。

だから、どうやっても結局ばかにみえる面接などを受ける場合は、
じぶんがいかにばかかを話せばそれでいいような気がする。
縁あって会う方、できるだけばかな話を聞かせてください。

わたしはできるだけ自分でおもいつくかぎりの
ばかなことをしようといつも試みている。
ばかなことだけが、わたしの人生を紡ぐ方法だからだ。
わたしがばかに見えたとしたら、それは生きるためである。

と、大げさな言い訳でまとめてみました。

これを読んでわたしのばかさかげんに心当たりのある方、
わたしはあなたに向けてこの文章を書いている。
何年経ってもほんとうにすまないと思いながら日々生きていて、
あなたに対しては決して償えないが
また誰かに対して同じ失敗だけはしないように願っている。
どうか元気でいてください。

以上でわたしの順番は終わりです。
こんなコラムを毎日読んでいるような
暇な人というのは本当は友達にしたくないタイプなのだが
一週間おつきあいありがとうございました。

今週は月曜が祝日で書く欄が一日少なく
わたしはほんとうに幸運です。

さて、来週この欄を担当するのは
鈴木契くんである。

その名前から、
スズキの軽自動車の仕事がはやく回ってこないかと思うが
いまだその機会には恵まれていない。

ただ、鈴木という姓からして絶倫だと思われる。

よろしくお願いいたします。

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