リレーコラムについて

啖呵売

加藤忠生

 カミさんが出かける。
「今日はちゃんと留守番しててヨ!町会の祭りなんだからッ」
ハイ、ハイ。女房、元気で留守がいい。
町内のお祭りといっても、神輿や山車が出る訳ではない。
近くの公園で、カラオケ大会や輪投げ等する板橋区のイベントである。
 カミさんは、近所のオバサン達と、トウモロコシ、焼ソバ、
団子など作って売るのだという。ま、縁日のようなものだ。
するとカミさんは香具師ということだ。区の管理の下で。
          ・
香具師(ヤシと読む。念のため)といえば、寅さんである。
映画の中で縁日とか祭りのシーンがあり、
寅さんが「啖呵売」をする。
「結構毛だらけ、猫灰だらけ。
 見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ。
 見下げて掘らせる井戸屋の後家さん。
 上がっちゃいけないお米の相場、
 下がっちゃこわいよ柳のお化け。
 馬には乗ってみろ、人には添ってみろってね。
 物のたとえにもいうだろう。
 物の始まりが一なら、国のはじまりは大和の国……」
こんな「啖呵」を言いながら、人を集める。
七・五調の言葉が、耳に気持ちいい。
意味とか文脈とか関係ない。
それがどうなの等と理屈抜きのコピーがいい。
お客さんに、TCCの今年のテーマ「つまらん」と思われたら、オシマイ。
「おいしいよ」「大丈夫ですよ」等と言うだけでは、受けない。
コピーの原点、楽しませて売るがここにあるね。
こういうことを言うこと、それ事態「つまらん」。
ま、いいか。
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つまらんを承知で、次にススム。
人間って「騙されたくない」という気がある。
当たり前のことである。
だが、「少しばかりは、騙されたい」というものもある。
それが「ノリ」というものであろう。ノル・ノセル。
特にCFなどは、ここのところが大切だね。
サントリーの燃焼系のCFは楽しかった。
理屈がないし、騙されても楽しいというノリがそこにある。
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カミさんは、今頃、焼ソバを売っているのだろう。
ふと思った。焼ソバの「啖呵売」ってあるのだろうか。
たいていは、黙って「ハイ、200円」くらいしか声は出さない。
ヒマだから、考えてみた。
「お客さん、ジッと見てたってお腹はふくれないよ。
 何、あたしの手際がいいから、見てたって?
 うれしいね。手ばっかりぢゃなく顔も見てよ。
 昔はキレイだったんだから。亭主もそう言ってたよ。
 最初はキャベツだ。
 群馬県は嬬恋村、浅間山の火山灰の攻撃にも負けず、
 元気に顔を出した上物だよ。
 お次は中国産のちりちり麺。あの奏の始皇帝が
 中国ぢゅうの料理人に研究させた不老長寿のおソバだ。
 一口食べれば3000年は長生きできる。
 さあ、重要なのがこのソースだ。
 かの有名な北海道農学校のクラーク博士がこっそり、
 学生たちに教えていった秘伝の味だ。
 少年よ聖徳太子を抱けってね。
 そうそう、この牛肉ね。これは米国産。
 ララミー牧場というところでBSEが出たの。
 そこの牛。次々と倒れてゆく牛の中で、
 スクスク育ったものを選んで輸入したの。
 どう、味見だけでもしてみる?
 今日はお祭りだから、縁起よく桜エビも入れちゃおう。
 家康公のおひざ元、駿河湾でとれた逸品だ。
 色はピンクだけど、アオイの御紋が入っている。
 この紋章が目に入らぬか。
 何、恐れ多くて食べられない?
 苦しうない。余が許す、近う寄って買って帰れ。200円。」
          ・
カミさんが帰ってきた。怒っている。
「山田さんの旦那さんが定年でヒマだからって、
 手伝いに来たの。皆に昔の名刺など配って。
 ま、それはいいの。
 それよりも、カトーさん、水を汲んできて下さい。
 宮本さん、野菜を切って。
 ほらほら、西田さん、ガスボンベイを取り替えて。
 いちいち命令するのよ。命令するのが仕事だと勘違いしている。
 なんでも大きな会社の部長さんだったんですって。
 迷惑よ、ああいう人って。何もできないんだから。
 くやしいから、終わった後、
 スミマセン洗い物を手伝って下さい。と言ったら、
 『そういうことは、女の仕事です。』と言って帰っちゃった。
 頭に来たワ。」
          ・
後日談がある。
ヒンシュクをかった事が山田さんの奥さんから、
旦那さんの耳にも入ったらしい。
旦那さんはそれ以来、引きこもり、座椅子にもたれて、
毎日、TVばかり見て過ごした。
ある日、腰が痛いということで、医者に見せたら、
床ズレが出来ていたという。

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