リレーコラムについて

ジーンズや古着のこと。

三神明仁

 かみさんの膝が悪くなった。
ヒールが履けない彼女は、スニーカーになり、
足元からどんどんカジュアル化していった。
横に並んで立つのは、全身プラダで黒く武装した私。
どう見ても、ちぐはぐだった。

 最初に伝染したのは、ジーンズだった。
なんとなく年とともに似合わなくなった感を強め、はかなくなっていた。
でも一本色落ちしたジーンズを買ったのが、きっかけだった。
なんとなく、その色落ち自体に興味が出た。
スイッチが入った音がした。
そこから奈落の底につながるドアが開いた。
ドアの名前は「ビンテージ」と書いてあった。

 デニムの色落ちの世界は、骨董と同じだった。
はっきり言っておくが、陶磁器の肌を見る眼と、
デニムの縦落ちを見る眼は同じ感性だ。
まあ、そんなに力説するほどのことでもないが、
それを発見したときは驚きで声が出た。
だって、だいたい対象層は、まったくラップしていないわけですよ。全く。
年齢の中心層も。陶磁器の肌つやがどうのと談義している多くのご年配と、
この落ち感よくなーい?と言っているウラ若き女性たちと、
同じものが根底に流れているっつーのは、感動だったわけです。

 病気は瞬く間に広がり、ジーンズ病は他の衣料に伝染し、
あっというまに全身古着になっていったわけです。
当初、渋谷・原宿なんて近寄りもせず、
日本橋や青山に生息していたのが、
いまや毎週末、古着屋めぐりです。
渋谷・原宿にはじまり、高円寺や町田まで、
私の知らないところで勝手にいいものを置いていないかどうか、
頻繁にパトロールに出ています。

 はっきり言って、たのしい。
バリバリ音がしています。
まあ、いつまで続くのか、
実は、あんまり自分を信用していないんですけど。

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1週間、ありがとうございました。
モノをめぐる話ばかり書きましたが、
私はつくづくモノにはチカラがあると思っています。
1点、そこにモノが存在するだけで、
ヒトのココロにも影響を与え、
嬉しくなったなったり、わくわくしたり、
背筋が伸びたり・・・。
日によって感じ方も変わり、
時間がたつと色褪せたりもする。
ぜんぶ人間が勝手に解釈してることでしょうけど、
なんか不思議です。

来週からは、私の同期の星野さんにバトンタッチです。
リクルートのブランディングをやっています。
優秀なんだけど、チャーミングな人です。
どうぞ、よろしく。

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名前
5692 2024.04.21 長谷川輝波 言葉オブザイヤー@ヘラルボニー
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