リレーコラムについて

ベラルーシ警察にお世話になった・前編

波間知良子

サンクトペテルブルクからウクライナのキーウ(当時はまだキエフ)へ鉄道で移動した。
その前に北京からイルクーツク、イルクーツクからモスクワ、
それぞれ3泊4日のシベリア鉄道での移動を経験していたので
ロシアの鉄道には慣れていた。しかも今回は1泊なので余裕。
3等寝台で一晩寝て起きた早朝、
朝日を浴びながら紅茶を飲んでいると警官が回ってきた。
国境。パスポートが回収されていき、しばらくして返却されて完了、
はれてウクライナに入国。のはずだった。
しかし戻ってきた警官は私にこう言った。
「今すぐ荷物をまとめて降りろ」。

「え!?」パスポートに何か問題があった?
とにかく列車が動く前に降りなければならない。
周りの乗客の視線を感じながら急いで荷物をまとめる。
停まっていたのは、ただただ林に囲まれた田舎の駅だった。
周りに家も建物も見えない。状況を徐々に理解した。
そこはベラルーシだった。

サンクトペテルブルクからキーウまでの鉄道は途中ベラルーシを通過する。
なんて聞いてなかった。
しかしベラルーシは政治体制の厳しい国で、
通過するだけでもビザが必要(当時)なことは知っている。
もちろん私はビザを持っていない。不法入国である。
こんなに大事なこと、地球の歩き方には書いてなかった。
サンクトペテルブルク駅の窓口で列車のチケットを買った時も、
「ベラルーシ通るけどビザある?」とは聞いてくれなかった。
私は旅行に関してはかなり用意周到で、できる限り下調べする。
なにも決めずに心のままに旅を、なんて人もいるけど、
海外ではそういうのは命に関わりかねない。
ほぼ英語が通じない独裁国家の田舎町に1人放り出されたりするわけだ。
とにかくこの時はベラルーシビザに1ミリも思い至らず、完全に抜け落ちていた。

若い男性の乗務員(名前を仮にドミトリー、略してドミとします)が、
今日はここで勤務を終えるらしく、私と一緒に列車を降りた。
彼の上司らしきもう1人の乗務員が
「ここから別の列車に乗って1時間ほどいった街へ行き、
ビザを取りなさい。彼が一緒に行くから」と言ってくれた。
ドミの家もその街の方面にあるらしかった。

ドミは少しぽっちゃりとした30歳代前半くらいに見える青年。
でもロシア系の人は見た目よりもかなり若いことが多いので、
まだ20代だったかもしれない。英語はほんの少し話せるだけのようで
これからどこへ行ってどうするのか等の会話はできない。
(ただただ私がロシア語を話せないのが悪い)
不安なまま待っていると、各駅停車っぽい列車がやってきた。
ドミと一緒に乗り込み、しばらくするとわりと大きめな駅に着いた。
といっても駅周辺に広場やいくつかのビルがあり、
あとは住宅街が広がる、日本の地方都市くらいだろうか。
「Гомель(ゴメリ、ベラルーシ語ではホメリ)」という街だった。

ドミはまず駅の地下に私を連れて行った。
ソビエト建築の暗くてだだっ広い地下室。怖い。
これまたソビエト感あふれる、金属製の古いロッカーが並んでいる。
いったんここで大きな荷物を預けろということらしい。
奥にあるカウンターに職員がいて、何やらドミトリーとやりとりし、
暗証番号を設定してロッカーにキャリーケースを入れた。
もう二度と荷物は戻ってこない気がして不安だったが、従うしかない。

それから警察署へ向かう。駅からちょっと歩いたところにあるらしい。
ここでビザが取れれば、午後の列車でキーフに向かえる。
しかしたどり着くと門が閉まっていて、誰もいなかった。
その日は日曜日で、なんと日曜日は警察は休みとのことだった。
ドミが申し訳なさそうに「tomorrow」と言い、この街での一泊滞在が決定した。

ここでドミとはお別れかな、あとは1人でどうにかしなきゃ、
と思ったが、彼は当然のようにホテル探しを手伝ってくれた。
まず駅の横にある比較的新しい、街一番っぽいホテルに行ってみる。
(というかホテル的なものは他になかった)
ドミが交渉してくれたが「ビザのない外国人は泊められない」
とのことで宿泊を拒否された。自分の状況を思い知らされる。
ちなみに1泊3000円程度だった。
駅のベンチで寝るか・・と思いきやドミは駅舎の中へ戻っていく。
駅に併設された公営の宿泊所があるようだった。
かなりそっけない内装だが、1泊300円くらいで、
男女別で3人程度の共同部屋がいくつもある。
なんの身元確認もされず、すんなり泊まれることになった。

ここでいよいよドミとは本当にお別れだ。
いま思えば見知らぬアジア人に信じられないくらい親切にしてくれて、
謝礼を要求されてもいいくらいだが、彼はあっさりと帰って行った。
自分のことで頭がいっぱいで、きちんとお礼も言えなかった気がする。
今更だけど、ドミトリー(仮)、本当にスパシーバ。

 

この話、長いですね。明日へ続きます!

NO
年月日
名前
6181 2026.09.17 波間知良子 ベラルーシ警察にお世話になった・前編
6180 2026.09.16 波間知良子 チリ警察にお世話になった
6179 2026.09.15 波間知良子 アルゼンチン警察にお世話になった
6178 2026.09.14 波間知良子 世界一周すると聞かれること
6177 2026.09.11 内藤零 責任感と、AIと、
  • 年  月から   年  月まで