リレーコラムについて

チリ警察にお世話になった

波間知良子

チリも南米の中では治安のいい安心な国と聞いていた。
その日は昼間のバスに乗って移動の予定だった。
長距離バスだと外国人旅行者ばかりなのだが
数時間の中距離路線だったので地元客が多いようだった。

バスに乗り込んで予約した窓際の席に向かうと、
隣の通路側席にすでにチリ人らしき青年が座っていた。
私がリュックを荷物棚にあげようとすると、
立ち上がってニコニコしながら手伝ってくれる。
ジェントルマンだし、けっこうイケメン。グラシアス。
やっぱチリは優しい人が多いな〜と思いながら席に座り、
前日とくに意味もなく夜更かしをしたせいですぐに眠ってしまった。

目が覚めると、バスが停車していた。
信号待ちなどではなく、しばらく停車している雰囲気だ。
目的地にはまだ早いよな、と思って
窓のカーテンを少し開けて外を見ると、
道端に小屋のようなものがあり、警官が立っていた。
その横に男がいる。体の前に揃えた両手に、手錠がかけられている。
隣の席の青年だった。

1人の警官がバスに乗り込んで私の方へ向かってきた。
頭上の棚にあるはずの私のリュックを持っている。
「これはあなたのもの?中身を確認して」
パスポート、財布、カメラなどは別のポーチにいれて
肌身離さず持っていたので、貴重品は入っていなかった。
リュックの中にあったのは電子辞書
(その前にメキシコとグアテマラで
スペイン語を習っていたので持っていた)と、
どこかの町で菓子店で買った箱入りのクッキー。
他の細々したものを含め、特になくなったものはなかった。
ただ、クッキーの箱が入っていた、
菓子店のオリジナルのかわいいビニール袋が、
無理やり開けたようにビリッと切り裂かれていた。

隣の男は私が寝ている間に、網棚の私のリュックを
車内後方のトイレに持ち込んで物色したようだった。
めぼしいものが電子辞書くらいで、
ビニールの中にも何か入っていないか確認しようと
焦って破り裂いたのだろう。
そして、彼のその怪しい挙動を不審に思った他の乗客が
ドライバーに相談し、通報してくれたのだった。

というのがことの顛末なのだが、
男が連行されて手錠をかけられるまで
なんで寝ていられたのか、今思うとちょっと謎だ。
誰か起こしてくれなかったのだろうか・・・

貴重品は別にしていたとはいえ、
いちおう数万円する電子辞書の入ったリュックを
荷物棚に乗せて爆睡したのは気のゆるみだった。
ブラジルやボリビアだったら絶対にしていないと思う。
ただ虫の知らせがあったのか、いつもはリュックに入れるパソコンを
その日だけ預け入れ荷物のキャリーケースに入れていた。
結果的に未遂に終わったわけだが、万が一の場合も
写真データなどを保存しているパソコンは盗られずに済んでいた。

隣の席が空席になったまま、バスはまた発車した。
途中でバスごとフェリーに乗る区間があり、
乗船中はみんなバスから降りてデッキで過ごすのだが、
何人かの同じバスの乗客が「大丈夫?気をつけなさいよ」
と声をかけてくれた。

爽やか好青年の犯行。
結局どこの国も悪いやつもいればいい人もいて、
いい人そうで悪いやつがいて、悪そうでいい人もいる。

と、当たり前の話でまとめてしまったが、
旅をするたび、いつまでもそのことに振り回されて
困ったり驚いたり反省したり喜んだりしている気がする。

では、また明日〜!

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