リレーコラムについて

美術館で人は、絵を見ていないのかもしれない

真子千絵美

「りんごおいしそ〜」
「デザート食べいく?」

箱根のポーラ美術館。
りんごが描かれたセザンヌの静物画を一目見て、
大学生くらいの男女は
私の後ろを楽しげに通り過ぎていきました。

 

美術鑑賞の楽しさを広めたいという思いで、
美術館の学芸員を目指し、芸大に入学。
ひとり必死で作品情報のメモをとっていた
大学一年生の私は、同世代のふたりの会話を
ちょっとバカにする気持ちと、
かなりうらやましい気持ちで聞きながら、
あることを思ったのでした。

 

美術館で人は絵を見ていないのかもしれない。

 

美術館という同じひとつの空間にも、
人は異なる動機を持って集まってきています。
作品を鑑賞したいからという人はもちろん、
友達や恋人に誘われたから、
美術館の知的な雰囲気を楽しみたいから、
話題に乗っときたいから…
知識をだれかにひけらかしたいから、
という人もいるかもしれません。

 

作品を、鑑賞される対象ではなく、
今という素敵な時間を過ごすための
演出のひとつとして捉えてみる。
すると、美術鑑賞の楽しさを伝えるためには、
作品自体を研究するよりも、
人と作品の出会い方を工夫した方が
効果的かもしれないと思うようになりました。

 

例えば、
杉本博司の『海景』シリーズの1作品は、
瀬戸内海にある直島で、
そびえ立つ崖の肌に展示されています。
遠い浜辺から目を凝らして探さないと見えない。
説明の文章も作品の詳細も何も見えない。
ですがきっと、それを見た経験のある人は
その作品を一生覚えていることでしょう。

 

過去に隅田水族館で行われていた展示もそうです。
ハリセンボンの水槽に書かれた説明は
「針千本ない」のたった5文字。
しかし、その5文字には、
長々と書かれたキャプションよりも
水槽の中を見たくさせる力があることでしょう。

 

作品の見せ方/伝え方次第で、
作品の受け取られ方は簡単に変わる。
だから私はそのプロになりたい。

そう思い、
企業や商品の見せ方/伝え方を考える仕事である
広告というお仕事に惹かれました。

 

今はすっかり美術と離れた生活を送っていますが、
TCC会員としてコピーライターとして
初めてのコラム。
荷が重すぎる役割に
どんなことを書こうと悩んだのですが、
今後読み返した時に広告に対する
初心を思い出すものにしたいと思い、
美術ばかりだった自分が広告に惹かれるようになった
はじまりについて書かせていただきました。
長々と自分のことばかりでごめんなさい。。

 

申し遅れましたが、
資生堂表情プロジェクトのバンパーのコピー
「木曜だと思ったら金曜じゃん!の表情」で
TCC新人賞を受賞させていただいた真子千絵美です。

 

上記の通り、
私は最初からコピーライターに
なりたかったというわけではありません。

しかし、TCC年鑑を開くたびに、
言葉でできることの大きさを感じ、
まだまだ伝え方には可能性があると
ワクワクさせていただいています。

たくさんの憧れる先輩方がつないできて
今回早坂さんが渡してくださったバトン、
緊張しますが、
未熟なりにがんばってつなげます。

 

薄々お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、
絵本作家のヨシタケシンスケさんが大好きです。
なにかについて勝手に妄想することも大好きです。
これから週末まで、
私がこれまで感じた『〇〇かもしれない』を
いくつかお話し、
自己紹介とさせていただきたいと思います。

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