好奇心は鍬である「オーディオ沼顛末」
うちにはミーフワという手触りの良い毛布があり、子供らがずっと奪い合っています。正式名称はモフワです。鎌倉の中高の先輩である見市さんの家に行った時に子供がくるまって寝てしまい、のちほど見市さんのフワフワが欲しいと言い出したのでミイチフワフワ略してミーフワです。見市さんのバトンもフワフワしている気がしてきました。主観の話に感銘を受けたので、ごりごり主観の内容を五日間ぶっ通しで書かせていただきます。
音楽が好きです。中高はSONYのコンポで、大学と会社中盤はONKYOの5.1システムで、5年前に一軒家に引っ越してからはJBLの4312Mで聴いてきました。3月に一緒に飲んでいた方が行きたい音楽バーがあると言うので石川町のLISTENという店へ。音楽バーはこれまで数回行ったことあるものの、そこまでハマっていなかったのですが、やられました。James Blakeってこんな音だったの?残響が空間を包んでいき沈み込むような耽美な音。それから紆余曲折あり(謎のアレルギーになって今を楽しまないとダメだと思い至ったりして)気づいたらタンノイのGRF memoryという巨大スピーカーをお茶の水のオーディオユニオンハイエンド中古館で買っていました。ドカベンみたいなデカさのスピーカーが二台部屋にやってきてネットワークアンプとつながって音を出し始めました。これまで聴いていた曲が全部違って聴こえてくる。これがオーディオ沼と言われるやつの入り口なのか。となると、アンプってこれでいいのかしらと疑問が湧いてきたので主成分が音楽の人間である菅野薫さんに伺ったところ「駆動力が足りない」と。駆動力。初めて聞く言葉です。せっかくだからとご友人のやられている下北沢のジャズ喫茶「tonlist」に連れていってくれました。スズナリの中にあるtonlistの宇野さんはとても親切な方でタンノイのイートンが鳴り響くなか丁寧にいろいろ教えてくれました。曰く、巨大なスピーカーは低音の制御に力がいる。制御しきれないと振動が残って音がぼんやりする。いいアンプはピタッと止めることが出来る。これを駆動力という。なるほど。言われてみるとイートンは小さめながらとても迫力ある音を出していながら会話を邪魔しない。とはいえ、何から手を出したらいいのかと悩んでいたら宇野さんの持っているアンプを貸してくださることに。それ以来、下北沢に足を向けずに寝ています。
アンプは、プリメインアンプという一台でコントロールできるものもあれば、プリアンプ(主に中高音担当)とパワーアンプ(低音担当)を組み合わせる方法があるのですが、まずはプリメインアンプを貸してくれました。また、配信の音源をアナログ変換してアンプに入力するDAコンバーターも。どっさりと届いたアンプ類を前に私は不安でした。切り替えたときに変化がなかったらどうしよう。そうなったら、すごくすごいです!とか煙に巻くしかない。と。ところがまあ変わりました。音が前に出てくる感覚といいますか、実際クリアになったのです。数日してプリとパワー違うとどうなるんだろと興味が湧いてきたところ、今度はQUAD405という名パワーアンプを貸してくださいました。私は不安でした。が、これまた音が全然ちがう。オアシスをロックバンドだと頭では認識していました。このシステムで聞いたらモーニンググローリー(曲の方)の音が壁のように襲ってきて、これがウォールオブサウンドか。これがロックというやつか。とようやく心で理解できた気がしました。こうなると止まりません。プリアンプにQUAD33を買って、パワーアンプもおすすめ頂いたアンプジラ(アンプ+ゴジラ)というものにして、ケーブルも変えてと転がる石のようにオーディオ沼に突っ込んで行きました。あまりに音が変わるので、「最初はごめんなタンノイ。潜在能力引き出せなくて…」という気持ちで。
学習というのは、教わるだけでなく、自分で掘ることでも進むものです。五味康祐の「西方の音」やstereo soundなどの各種雑誌を買いました。オーディオのメッカ秋葉原へも何度も行きました。色々お借りした初期に歩いたゴールデンコースでの体験が忘れられません。コイズミ無線、ハイファイ堂、ダイナミックオーディオ、オーディオユニオンハイエンド中古館。買う気まんまんで巡りました、が。GPTに相談してお店に並んでるものの相性を調べて「これなんか合いますよね?」と分かってる風な顔して尋ねると「それはあんまりよくないやつですね。」「お客さんの目指す音は?」「いろいろ試してから買ったほうがいい。オーディオは旅だから。」「もっといいのあると思うんで他店を調べてみては?」「とにかく研究をするべきです。」と、概ねどの店もこういったことを言ってきて売ってくれないのです。ちなみに、本気なだけで怖くはないです。いや、コイズミ無線は昔の秋葉原のような緊張感がありましたが。これはすごいことだと思いました。なんでもおすすめして買わせようとしてくるこの時代に、安易に売らないこの姿勢。本当に客のことを考えてくれている。感動して妻に話したら「RPGだね」と言われて、目から鱗(に似たアンプジラのロゴ)が落ちました。ドラクエの設計思想で、遠回りしないといい宝に出会えないように作ったという話があります。人生がそうだからと。ふわふわした自分の感覚を探りながら、いつ入るか分からない商品を探り続けるのは、その購買行動自体が人生と連動していく楽しさとなるわけです。そして、ひとつ知るごとにまた新たな扉が開いていく。なんなら、自分自身も変化していく。好奇心が鍬となって、新たな地平を切り開いていく実感。流されるままに買うことでは得られない経験がここにはあるのだ!と正当化しながら日々オーディオの話を妻にしては煙たがられ、オーディオの話ならもう大丈夫と先回りされています。
明日は、耳の学びの実践編としての音楽・ジャズ喫茶紹介です。
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