リレーコラムについて

ヒゲとわたし

有元沙矢香

ある日、気づいたらヒゲが生えていた。
それも口の上ではなく、
犬とか猫とか動物にありがちな
鼻の横あたりに生えていた。

はじめて気づいたのは、7年前くらいだろうか。
朝化粧をしていたら、
2cmくらいの白い毛が顔についていた。
セーターの毛かな?と思ってとろうとしたが、とれない。
グイッと引っ張る。
すると、明らかに皮膚の下で踏ん張っている力を感じる。

「あ、これヒゲなんだ。」

しかし、いきなり生えたそのたった1本のヒゲが、
なんだか砂漠に咲く一輪の花のように健気に思え、
私はヒゲを抜くのをやめた。

そのヒゲは異常な速さで伸びた。
1週間で1cmくらいは伸びた。
どこまで伸びるか試したくなった。
好都合なことに、そのヒゲは白い。
ま、バレないだろうと思っていた。
しかし、その長さが3cmを超えた頃、
落とし穴があった。

「ねぇ、なんか光ってるよ?」

白は光に当たると輝くのだ。
何人かに指摘された。
何人かは会話中明らかに私の鼻の横をみつめていた。
私はその挑戦をあきらめることにした。
その時、友人のひとりが教えてくれた。

「白い毛って福毛と言って、願い事が叶うと抜けるんだって。」

あぶなかった。
抜くところだった。
私はみんなに気づかれない程度の長さに切ることにした。

しかし、ヒゲの成長は止まらない。
気を抜くとすぐ伸びている。
めんどくさがりの私のヒゲは、
常にほんの少し伸びていた。
そのためヒゲは、
何度となくそのいのちを危険にさらされた。

たとえば、化粧品売り場。
ファンデーションやチークを買いに行くと、
ほぼ100%でメイクブラシの毛と間違えられ、
抜かれそうになった。

歯医者。
ここも危険地帯である。
強いライトでひときわ輝いてしまうのだ。

そして、最難関がエステ。
心地よくて寝てしまうと、
うっかり抜かれかねない。

そんなピンチを乗り越え、
守り抜いてきたヒゲに転機が訪れる。

結婚だ。

「白い毛って福毛と言って、願い事が叶うと抜けるんだって。」

念願の結婚をすれば、
このヒゲは抜けるかもしれない!と思った。

・・・違った。

2本になった。

嘘のようだが、結婚してから2本になった。

それから少しして、そのヒゲは3本になった。
しかもそのうちの1本が黒いのだ。

黒はダメだ。
目立ってしまう。

意を決して、
その黒いのだけを抜こうとした。
すると、なんということか…全部抜けてしまった。
毛根がひとつだったようだ。

あっけなく迎えたヒゲとの別れ。
会社生活のつらいことも楽しいことも
毎日一緒に過ごしてきたヒゲ。
たかがヒゲだけど、
7年も守り続けていれば情がわく。
しかも願い事をかなえるでもなく、
自らの手で抜いてしまうなんて…。
私は何とも言えない喪失感に見舞われた。

しかし、その1週間後。
ふと鏡を見ると、生えていた。
また3本。
うち1本は黒。

これからどう付き合っていこうか。

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